Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.57 - 2017/01/06《from 石川支所》

山岸邦彰/金沢工業大学環境・建築学部建築学科教授

今年の漢字は「金」だそうである。毎年、その年の世相を反映した1文字が選ばれ、京都清水寺の貫主が揮毫する。今年はリオデジャネイロ五輪によるメダルラッシュが反映されたものとみられる。五輪と言えば柔道、レスリングなどの競技が日本のお家芸として持て囃されるが、水泳も日本は強豪国として名を連ねる。水泳JAPANを後押しするかのように、金沢市城北市民運動公園内に“金沢プール”が完成した(2016年8月31日)。“金沢プール”は石川県で初の屋内長水路(50m)を保有するプールであり、また、国体などの大会の開催が可能で国際規格に準拠したプールでもあり、その完成が待望されていた。“金沢プール”は、「市民がいつでも、誰でも泳ぎに来ることができる」、ことをコンセプトとして企画された。50mプールは競技用の仕様を備えているが、可動床と可動壁により市民にも使いやすい25mプールに変身する。

国道8号線を福井方面へ車で走行しているとふたコブの大屋根が現れる。この屋根が金沢から眺望される山の稜線と調和している。近くに寄るとその巨大さに圧倒される(写真1)。2階までは鉄筋コンクリート造(RC造)であり、屋根は黒色の金属屋根、外壁は市松模様の木製のウォール(写真2)となっている。最近、鉄骨の単価が下がってきており、鉄筋コンクリート造の需要が低下している状況下にあって、久しぶりに打ちっ放しの巨壁を見るとき、軽快な造りが流行の建築にはない重厚さと存在感を感じた。また、ふたコブ屋根の建築に隣接するように、25mプールの下屋が伸びている(写真3)。


写真1 西面より臨む

写真2 木製ウォール

写真3 25mプール側より臨む

実は、今年6月に内部を見学させていただく機会を得た。内部は、ふたコブの屋根を支える構造が圧巻である。50mはあるであろう長大な立体トラスがコブに沿ってうねりながら張間を形成している。大屋根の掛け方が大変気になったが、屋根を2節に分けてクローラークレーンで吊って接合したという。どのような施工であったか見たかった、というのが率直な感想である。

8月にプールは竣工をしたものの、外構は施工中である(写真4)。外構といえども広大である。完成にはまだ時間が掛かる。実は本稿を書いている最中にオープンの日が2017年4月9日に決定した。同日は市民への無料開放や、ゲストスイマーによるエキシビションが行われる予定である。また、2020年東京五輪に向けたフランス代表チームの強化練習場として“金沢プール”が選定される見込みとのこと。東京まで2時間30分で繋ぐ北陸新幹線があってこそと思われる。新幹線と建築の相乗効果をあらゆる分野で発揮できることを願う。


写真4 外構工事(駐車場)

写真5 東面より臨む

ところで、“金沢プール”について一抹の不安がある。私は水泳が好きで時々市民プールを利用するのだが、いつもガラガラ。1コースに1人しかいないこともザラにある。本当に多くの市民がこのプールを利用するのであろうか?収入増を目的として高い利用料が設定されはしまいか?やはり最後は“金”に辿り着く。今年に限らず。

“金沢プール”概要
□概要
 プール
  50mプール(日本水泳連盟国際公認プール 水深0~2m 10コース)
  飛込プール(日本水泳連盟国際公認プール 水深5m)
  25mプール(水深1.1~1.35m 2段式 7コース)
  観客席(2,100席、仮設約400席 増設可)
□構造種別
 下部構造:鉄筋コンクリート造(一部、鉄骨鉄筋コンクリート造)
 上部構造:鉄骨造
□規模
 延床面積:約14,100㎡
 地上3階、地下1階
□設計
 梓設計
□施工
 清水・大鉄・豊蔵・双建 特定建設工事共同企業体
□工期
 約26ヶ月
□事業費
 約74億円