Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.58 - 2017/04/05《from 石川支所》

山岸邦彰/金沢工業大学環境・建築学部建築学科教授

『何とかファースト!』と付けると「お前もか!」と叱られそうなご時世になってきましたが、2017年度初のトピックは僭越ながら金沢工業大学の新・夢考房をご紹介したいと思います。

「夢考房」をご存知の方も居られると思いますが、夢考房は課外の学生のワークスペースです。大学で学んだ知識や技術を形にして、社会にどのように還元していくか。無から有を生み出す思考力と実際の形にする行動力を涵養する言わば修業の場でもあります。タイトルに、「学生ファースト」としたのは、このように夢考房は正に「学生の学生による学生のための施設」ですので、このタイトルを付した背景も分かって頂けるかと思います。

さて、この夢考房。以前は2か所に分かれていました。旋盤やフライス盤などの金属加工を行う「夢考房26」、木材加工やフリーの作業スペースがある「夢考房41」。これらは異なる敷地にあり、行き来が大変でした。雨天には製作したものを懐に収めて移動することもありました。
また、皆様がご存知のロボットコンテストや鳥人間コンテストなどTV番組でお馴染みの競技にも、夢考房のプロジェクトが参加しています。しかし、様々な競技が誕生し進化する中で、競技の「練習場所」の確保が問題となりました。それらを解決するのが新・夢考房です。

2棟あった建物を1棟に集約。2棟合わせて約3000m2だったものを1.7倍の約5000m2に拡大。大幅に床面積を増やしました。また、これまで試走スペースがなく、重たい椅子や机を運び出した教室やホールでロボットなどを試走させ、あと一歩で完成というときも、翌日の講義のために教室を原状回復しなければなりませんでした。新・夢考房では「試走スペース」と呼ばれる様々なコンテストの練習場所を2か所配備。これさえあれば学生の様々な活躍が期待できる?かどうかは分かりませんが、頑張ってほしいと思います。

では、建築をご紹介します。まず私達の目に入ってくるのがV字の柱に支えられた大庇(図1)。道路に面した部分はこのV字の柱がモチーフになっています(図2)。また、道路側は全面ガラスとなっており、夢考房の中は丸見え。外から見られている緊張感を煽る仕掛でしょうか?内部は白を基調とした明るい室内になっており、基本はオープンスペース(図3)。建築全体がイノベーション・スタジオという雰囲気になっています。中心部には大きな吹き抜けがあり、直線に伸びた階段が2階、3階へと誘われます(図4)。誘われるまま3階まで一気に上がるとそこには2層吹き抜けの大きな「試走スペース」が現れます(図5)。ほかにも至る所にミーティングスペースやラウンジがあり、学生がいつでもこでも打ち合わせができるようになっています。


写真1 エントランス

写真2 新・夢考房の外観

写真3 新・夢考房のプロジェクトブース

写真4 直線階段と吹き抜け

写真5 試走スペース

新・夢考房は平成29年4月1日にオープン予定。既に落成し、私が訪ねた時は設備の受け入れ準備で大わらわでした。ご多忙のところ建物を案内していただいたプロジェクト教育センターの内海考司さんに感謝申し上げます。