《石川》図書がつなぐ市民活動の輪~野々市市の新しい文化交流拠点施設の紹介~
AH! vol.59 - 2017/07/06《from 石川支所》
山岸邦彰/金沢工業大学環境・建築学部建築学科 教授
平成29年(2017年)11月1日、石川県野々市市に新しい文化交流拠点施設が誕生します。この施設内で千変万化する市民活動の光景を万華鏡になぞらえ、その名も“カレード”(英語のKaleidoscope(カレイドスコープ;万華鏡)から)。“カレード”(学びの杜ののいち カレード)は図書機能と市民学習の場を併せ持った施設であり、図書スペースを中心として様々なアクティビティを活性化する仕掛けがあります。
この日、ご案内頂いたのはこの作業所の所長である隅田暁さん(写真1)。とても気さくな方でして、未来を背負う技術者のためならばと、この日、大勢の学生の見学を引き受けて頂きました。
最初に、もっとも気になるのは勾配がついたほぼ真四角の1枚の大屋根。とにかく大きい。建築面積は約4,800㎡ですが、これをすっぽり覆っています。さぞかし中は暗いだろうと思って中に入ってみると意外に明るい。実は光庭が2か所あり(写真2)、周囲を優しく照らしています。上を見渡すと、ここは体育館か?と思うほど柱が少ない大空間になっています。そして誰もが気になる金属光沢がまばゆいステンレスの天井板(写真3)。そして、ビスでもんで出来る微妙なアンジュレーション。一見、「んっ」と思いましたがこれが人工照明に反射して、光に揺らぎを与えるとか。確かに工事用照明により壁に映った光は、水面に反射した太陽光のような印象を受けました。いろいろなことを考えるものだと感服しました。
また、ここにはシンボリックな2個のブックタワー(写真4)があります。このブックタワーは7mはあろう縦に伸びた書棚であり、2フロア分の犬走りがついたものです。スタッフは犬走りを移動して書籍を探します。今は建設中で殺風景ですが、書籍が収まったらさぞかし賑やかに見えることでしょう。実はこれらの2個のブックタワーが、この建築の屋根と地震力を支えているのです。ブックタワーは書棚であると同時に耐震要素だったのです。現場事務所で屋根伏図を見せていただきましたが、とても複雑でした。
図書スペースの横には「音楽スタジオ」があります。待ってください!図書館は静ひつな環境でなければと思うのに隣に音楽スタジオ?? そうなのです。ここは図書館ではありません。図書機能を中心とした市民活動の場なのです。ドラムの練習だってOKです。隣接する図書スペースとの間には小開口もあるのですが、3重サッシを見て納得しました。音楽スタジオの他にも、陶芸や工房、キッチンスタジオが図書スペースを取り囲んでいます。
「この打ちっ放しの壁を見てください」と隅田さん。「通り芯が1,800mmピッチでできているのですよ」と。1,800mmを4で割った450mmが1単位。セパレータ穴の間隔やカーペットタイルなど、すべてが450mmの倍数でできています。また、コンクリートの仕上がりがとてもきれいなのです(写真5)。コンクリート特有の気泡(あばた)がほとんどありません。隅田さんは富山県の黒部市国際文化センター「コラーレ」のコンクリート工事を担当された経験を活かし、コンクリートの打設後に“竹突き”を実施。「それは何ですか?」と尋ねると、打設後に竹筒で突くと生コンが揺動し、コンクリートの気泡が浮き上がって消えるとのこと。そのために、コンクリート打設時には竹突きができる支店社員を呼んで対応したとか。
市況の変化や職方の減少を受けて鉄骨構造の建築が増えている昨今、マッシブな鉄筋コンクリート(RC)による重厚感のある空間に触れ、RC造の良さを再認識できました。
最後になりますが、野々市市をはじめ関係各位に感謝申し上げます。
建物概要:学びの杜ののいち カレード(文化交流拠点施設)
住 所 石川県野々市市太平寺四丁目156番地
敷地面積 18,822.8㎡
建築面積 4,807.0㎡
延床面積 5,695.7㎡
最高高さ 10.127m
構造種別 鉄筋コンクリート造+鉄骨造
規 模 地上2階(地下なし)
受託事業者 野々市中央まちづくり株式会社
設計監理 三上建築事務所・梓設計・フジタ設計共同体
施 工 フジタ・豊蔵組・清水建築特定共同企業体