Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.93 - 2026/4《from 福井支所》

清水 俊貴/福井工業大学 工学部 建築土木工学科 准教授

□ 建築の動線と、都市の動線
 「敦賀に着いて、シェアサイクルを借りた。とりあえず気比神宮周りの観光地に行こうか?…でもお腹が空いたな。ロードサイドのファミレスとか行くのもいいな…」 動かない「建築」と向き合う建築設計者の視点が、街を走り回る「シェアサイクル」に向けられると何が見えるのか。出発点は、「動線」という概念へのアプローチの違いにある。 建築設計において敷地内に描かれる動線は、光の入り方や空間の連続性を意図して編み込まれた「体験のシナリオ」だ。一方、都市の動線である道路等のインフラは、「大量のヒトやモノを、いかに安全かつ効率的に運ぶか」というマクロな機能的要請で強固に規定されている。 ミクロに編み上げられる「建築の体験的動線」と、マクロに敷設される「都市の効率的動線」。異なるロジックで動くこの二つの境界線を横断し、建築と都市のスケールをシームレスに結びつける存在として、シェアサイクルの軌跡が浮かび上がってくる。


写真1 しまなみ海道にて


写真2 敦賀市気比神宮前ポート


写真3 北九州小倉駅前ポート


写真4 大分県立図書館前ポート


写真5 道後温泉商店街の一角にあるポート


写真6新高岡駅高架下のポート


写真7 水戸駅前のポート


写真8 下北沢のコンビニ前のポート


写真9 福井工業大学内ポート

□ 身体感覚による「移動の空間体験」
都市の動線を机上のデータだけでなく、身体感覚として捉え直す実践は、空間を考察する上で重要である。福井市内(自宅から福井工業大学まで)の自転車通勤や、しまなみ海道でのレンタサイクル走破といった実体験を通して見えてくるものがある。 自動車のスピードでは見逃してしまう路地のディテールや地形の起伏も、自らの身体でペダルを漕ぎ、街を回遊するとき、都市の風景は単なる「背景」から生々しい「空間体験」へと変化する。移動手段がヒューマンスケールになることで、「移動」そのものが豊かな空間の知覚プロセスへと転換する。


図1_つるがシェアサイクル利用者GPSデータによる滞留と移動経路(2025年4月)。敦賀駅から3〜4km圏へ回遊が広がっている。


□ 効率性を超える回遊と、地方小都市の再定義
モータリゼーションが浸透した地方小都市の事例として、福井県の「つるがシェアサイクル」のGPSデータを読み解くと興味深い現象が確認できる。新幹線開業に伴い増加した来訪者は、最短距離で観光地へ向かうだけではなく、海沿いを迂回し、自動車スケールのロードサイド空間(大型商業施設周辺など)を縫うように回遊している。 来訪者たちは、インフラが規定した「効率的な動線」から離れて、見知らぬ地方都市の日常風景に「移動の面白さ」を見出し、自発的な体験のシナリオを都市の中に描き出している。  
 街のどこにポートを置き、どう日常風景と接続させるのかという「工夫」の積み重ねが、人々の体験のシナリオを書き換えていく。その工夫の積み重ねを、ポートと日常風景の積み重ねとして考えたい。