Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.93 - 2026/4《from 石川支所》

山崎 幹泰/金沢工業大学建築学部建築デザイン学科 教授

本Webマガジンで、2024年7月に掲載した文化財ドクター派遣事業について、その後の進捗状況を報告したい。
2024年1月1日に発生した能登半島地震により被災した文化財等に対し、被災建造物復旧支援事業(文化財ドクター派遣事業)が実施されている。一次調査、二次調査に加え、2025年4月からは、技術支援調査(三次調査)を本格的に開始した。二次調査と同じく実測調査を行い、文化財的価値に関する所見、平面図ほかの図面作成と被害調査、修理方針と概算見積り、からなる報告書を作成する。表紙と被害状況調査書は災害調査支援システム上で作成、所見、図面などは各自の環境で作成し、PDFファイルをシステムに登録する。見積りは、建築士による概算見積りとする。一ヶ月程度で作成し、市町担当者から所有者へ報告書を手渡すこととしている。
石川県における、2026年2月末現在の調査内容と進捗状況は以下の通りである。
・一次調査(外観調査による被害の判定) 1,676棟
・二次調査(内部調査による被害状況の記録) 316棟
・技術支援調査(三次調査、調査報告書と修理見積の作成) 75件(一敷地を一件とするため、複数棟を含む)


図1 一次調査の実施状況


技術支援調査は、調査員3名で実施し、うち1名は日本建築学会員が入り、文化財的価値の所見作成を行う。技術支援調査における見積額は、建築士による概算見積で、可能であれば、応急復旧と本格的修理の二案を算出する。所見、図面などは、登録文化財申請を前提とした書式、内容とする。原則1日での調査であるが、所有者との関係を構築し、支出できる費用をヒアリングすることが、修理の実施に向けて不可欠である。
そのうえで、技術支援調査の報告書をもって、「石川県文化財等復旧事業」の対象となるよう、調査対象建物の登録文化財への申請を、市町と所有者に働きかける。石川県文化財等災害復旧事業は、能登半島地震復興基金を活用して補助を行う事業である。指定・登録文化財の修理費用のうち、所有者負担分の3分の2を補助する制度で、未指定文化財に対しても2分の1を補助する。ただし、未指定文化財の場合、社寺は除く。発災後、文化財に指定、登録されたものも対象となる。

・石川県文化財等災害復旧事業
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kyoiku/bunkazai/r6saigaihukkyu/index.html

そのため、登録文化財となるよう申請を行い、補助金を受けて所有者負担3分の1で復旧が進められることを目指している。所有者の同意が得られた場合、市町の担当者が必要書類を揃え、県に申請する。県で設置した災害復旧検討会で申請内容を精査し、審査を経たものを、県から文化庁へ申請(意見具申)する。これまで、技術支援調査を実施した物件について、その大半の所有者が修理を行う意思を示しており、順次手続きを進めている。
文化財ドクター事業は、公費解体との時間勝負であり、残念ながら調査が間に合わない物件も多数あった。迅速な一次、二次調査の実施が必要で、事前のデータベース整備の重要性を痛感した。また、二次、技術支援調査は、市町担当者との連携と、文化財レスキューからの情報提供が不可欠である。


図2 公費解体後のある寺院(珠洲市)


さらに技術支援調査では、文化財としての評価と、修理費用の見積が重要である。所有者は、修理か解体の決断と、費用の捻出に課題を抱えている。今後、所有者が耐えられる費用負担の中で、文化財的価値を損なわない必要最低限の修理が求められる。一方、文化財修理や伝統建築に経験のある設計者、施工者は、圧倒的に不足している。工事方針や仕様書の標準化、情報交換、工事監理の体制づくりに向けて、現在の体制を整えている。
震災発生から2年余りが経過し、26年3月末で文化財ドクター事業は一区切りとなるが、技術支援調査などは次年度以降も実施の予定である。震災と公費解体を生き延びた歴史的建造物が、能登にはまだ数多く残っている。これらが失われないよう、継続的な支援の手が必要とされている。


図3 更地になった朝市通り(輪島市)