Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.92 - 2026/1《from 石川支所》

中森 勉/金沢工大名誉教授・輪島市伝建地区保存審議会会長

2024.1.1能登半島地震から丸2年経過しました。しかし、屋根瓦の葺替えや部分復旧などが主で、復興にはほど遠い状況にあります。ここでは復旧・復興への足がかりについての所見を記します。

□黒島地区の町並みの特徴
黒島地区は、江戸後期から明治中期にかけて日本海交易で栄えた北前船の船主たちが暮らした歴史ある町です。当時の繁栄を物語る独特の町並みが、訪れる人々を魅了してきました。
船主たちの家屋は、地域の気候や文化を反映した特徴的な建築様式を持っています。

・屋根:黒の釉薬瓦葺き。日本海の厳しい気候に耐える工夫です。

・外壁:下見板張り。シンプルながらも重厚感のある姿をしています。

・開口部:木製格子。通りに面した部分に設けられ、落ち着いた雰囲気を醸し出しています。

これらの要素が一体となり、簡素でありながらも品格のある落ち着いた町並みを形成していました。船主だけでなく、船頭や水夫たちの家々も同様の意匠で建てられ、地区全体が統一感のある美しい景観を生み出していたのです。こうした町並みの特徴から2009年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。


写真1 地震前の町並み


写真2 倒壊した旧角海家住宅

□黒島地区の建物被害の概要表は2007.3.25能登半島地震と今回の住家に限った被害判定状況を示したものです。


表1 住家被害判定状況


 大規模半壊・半壊の住家棟数は前回より少し上回るだけで、数字上では大きな差がないようにみえます。しかし、内部柱を丹念にみていくと、今回の被害の特徴のひとつは、柱の折損が多かったことです。特に柱と鴨居の接合部で折れている点です。


写真3 柱の折損


写真4 土壁の崩落状況

 住家以外で被害が大きかった建物は土蔵です。倒壊した土蔵は数棟ありましたが、外壁下見板諸共、土壁が崩落したものがほとんどでした。土壁の崩落状況は黒島地区だけでなく、能登地方全体にみられ、2007年地震でもみられていました。崩落原因のひとつとして、土壁下地に使用されている竹が若干太く、柱と竹の止め方にも違いがあると当時の左官職人が語っていました。

□旧角海家住宅(国重文)の再建なくして、黒島地区の復興なし
 震災後、すぐに黒島地区に入りました。自宅の片付けのため避難先から一時的に戻られた住民の方々が、ご自身の家よりもまず、倒壊した旧角海家の今後を案じていらっしゃいました。これは、長きにわたり黒島地区の中心であり続けた旧角海家が、住民の皆様にとってどれほど大切な存在であったかを物語っています。北前船主として地域に繁栄をもたらし、今日までその恩恵を分かち合ってきた証だと思います。黒島で暮らす住民の皆様はもちろん、様々な事情で故郷を離れていらっしゃる元住民の方々にとっても、旧角海家の再建は、単なる建物以上の意味を持ち、黒島地区の真の復興には欠かせないものだと考えています。

□2つの団体の復旧・復興支援活動
 2024年の能登半島地震で甚大な被害を受けた黒島地区には、この2年間、日本各地から多くの団体、ボランティアグループ、企業の方々から温かい支援と協力が寄せられています。ここでは、その代表的な活動を2つご紹介します。
 1.黒島地区の「黒島みらい会議」の活動
この会議は、震災直後から住民同士の話し合いの場として設立されました。コアメンバーには、元々の住民と2007年以降に黒島の町並みや夕陽の美しさに魅せられて、移住してきた人で構成されています。主な活動は被災した住民の生活再建と地区の復興等に関わる意向調査や避難先から帰還支援、住家の売却・譲渡を希望する方のマッチング支援など多岐にわたっています。
 2.木構造を専門とする研究者の活動
 金沢工大、関西大学・立命館大学などの関西の大学の新進気鋭の木造構造研究者が、発災直後から挙って黒島地区に入り、家屋の被害状況調査と分析を行いつつ、応急復旧・本格復旧を望む所有者へアドバイスも実施しています。加えて、被災した家屋の補強方法や
応急補強に携わる設計士、施工者への講習会開催、個別指導など、ボランティアで活動してくれています。こうした彼らの活動は、日々の地道な努力と探究心をもって、木構造耐震の真理を追い求める姿勢には、頭が下がります。心からの敬意を表し、今後も彼らの活躍に期待したい。

 最後に、復興への道のりは厳しく、毀損した家屋の補強と修理、公費解体された跡地の再利用の在り方、様々な課題を乗り越えないといけません。
 今年、国の伝建制度は、発足から51年目を迎えました。これは、次の100年へ向かう、「元年」とも言える年です。そして、黒島地区にとって、この年は復旧・復興に向けた「真の第一歩」を踏み出す年でもあります。美しい町並みを後世に伝えようと、住民一丸となって復興に取り組んでいます。しかし、一度失われた伝統的な町並み景観や暮らしを立て直すには、多くの時間と労力、そして何よりも「息の長い支援」が必要です。

 これまでも温かいご支援をいただいてまいりましたが、どうかこれからも、会員の皆様の変わらぬご協力をお願いして結びとします。

 
 つまり、100年に向けての1年目です。黒島地区の復旧・復興の真の第一歩の年となるよう、息の長い支援・協力を賜りたい。