《福井》令和6年能登半島地震における地震動の破壊力特性
AH! vol.92 - 2026/1《from 福井支所》
井上 圭一/福井大学 工学部 建築・都市環境工学科 准教授
□はじめに
福井大学の井上研究室では建築構造に関わる研究を行っています。主に、建築物の地震応答に関わる研究や建築構造部材の構造解析モデルに関わる研究などを進めています。研究室の研究成果の一つとして、令和6年能登半島地震における地震動の破壊力の特性に関する研究内容について紹介したいと思います。改めまして能登半島地震で被災された方には心よりお見舞い申し上げます。
この記事は、表や図も含めて、文献(1)に記載した内容を簡潔に説明したものです。ご興味を持たれた方は、文献(1)をお読みいただきたいと思います。
□能登半島地震における被害と地震動強度
表1に、能登半島地震観測点付近の建物被害と地震動の強度指標を示します。大谷(OTN)、正院(SHO)、輪島(WJM)の震度階は6強ですが、震度階が7と評価される穴水(ANM)、富来(TOG)よりも、建物被害の割合が多いことが分かります。とくに、TOGの記録は、PGA(最大地動加速度)の大きさが最大となっていますが、全壊・大破と判断された被害はありませんでした。震度階や最大加速度と建物被害は必ずしも対応しないことが、改めて確認できます。
表1 能登半島地震観測点付近の建物被害と地震動の強度指標
表1中の1)
中澤駿佑,汐満将史,境有紀:2024 年能登半島地震における建物被害と発生した地震動の破壊力,日本建築学会大会学術講演梗概集(関東),pp.7-10,2024.8
□解析モデルと入力地震動
能登半島地震の破壊力を調べるために、地震応答解析を実施しました。図1に解析モデルを示します。これは、文献(2)などで用いた解析モデル(有限回転角モデル)で、崩壊するまで解析が可能なモデルです。ただし、本解析では、解析モデルの層高を3mとした1自由度系のモデルとし、固有周期0.1s~1.0sの範囲で解析を行いました。減衰は、瞬間剛性比例型で初期剛性に対して5%を仮定しています。弾塑性解析を行う際には、復元力特性として、エネルギー吸収応力が最も大きい完全弾塑性型を仮定しました。
図1 解析モデル
能登半島地震の地震動の特徴について比較・検討するために、OTN、SHO、WJM、ANM、TOGの地震動のNS方向とEW方向のデータに加え、1995年兵庫県南部地震の神戸海洋気象台のNS方向の記録(KOB(NS))を入力した解析も実施しました。
□弾性応答ベースシヤー係数(Ce)
図1の解析モデルの時刻歴応答解析を行い、建物が損傷しない(弾性範囲)と仮定した場合に地震応答によって生じる最大の力(モーメント)から弾性応答ベースシヤー係数(Ce)を求めました。図2の(a)~(e)に、各入力地震動(NS方向とEW方向)とKOB(NS)のCeを示します。また、(f)には、KOB(NS)のCeの値で基準化した比を示しています。
能登半島地震の記録のCeの共通点として、周期が0.3秒程度までの短周期の建物に対してはKOB(NS)よりも大きな値になっていますが、それ以上の周期に対してはKOB(NS)よりも小さい値になっていることが分かります。とくに、TOGについては、建物被害は他の地点に比べて小さかったのですが、Ceの値が大きく、KOB(NS)と比較してもかなり大きい値になっています。
図2 弾性応答ベースシヤー係数スペクトル
□倒壊ベースシヤー係数(Cc)
既往の研究(2)を参考にして、「倒壊ベースシヤー係数Cc」を算出しました。これは、建物モデルが完全に倒壊しないために、最低限必要な建物の強度を表します。このCcの値が地震動の破壊力を表すと考えます。図1の解析モデルに対する、能登半島地震の記録から倒壊ベースシヤー係数Ccを求めて、KOB(NS)と比較します。図3の(a)~(e)に、各入力地震動(NS方向とEW方向)とKOB(NS)のCcを示します。また、(f)には、KOB(NS)のCcの値で基準化した比を示しています。
図3 倒壊ベースシヤー係数スペクトル
Ceが大きかったTOGのCcの値が他の地震動に比べて小さく、建物被害の程度が小さかったことと対応していることが分かります。その他の4記録では、固有周期が約0.5秒程度以下では、KOB(NS)とほぼ同程度またはやや小さく、それより長い固有周期では、KOB(NS)のCcよりも大きいことが分かります。KOB(NS)との比較から、CcとCeでは、固有周期に対する傾向が全く異なっていることが分かります。
この結果から、固有周期がやや長めで建物が層崩壊するような場合に対しては、KOB(NS)よりも(TOGを除いては)能登半島地震では、破壊力が大きかったことが推察されます。能登半島の各地には、固有周期が0.5秒程度以上と考えられる建物は少なかったと考えられますので、実被害との比較などによる検証は難しいのですが、AH! vol.85(金沢工業大学山岸先生)で報告されている地震被害と損傷による長周期化との関係に関する記述や、AH! vol.88(金沢工業大学佐藤先生、須田先生)で報告されている社寺建築や古い木造住宅の被害が甚大だったとする記述を参考にして、能登半島地震では固有周期がある程度長い建物に甚大な被害があったとすると、能登半島地震の入力地震動の特性による影響もあった可能性があると考えています。
□おわりに
本記事では、能登半島地震の特性に関わる研究成果の一部を紹介させていただきました。現在、建物基礎の地震時挙動の影響や、建物の復元力特性の影響、多層建物の崩壊位置との関係などについて詳細に検討しています。これらの研究成果は、今後、日本建築学会北陸支部大会でも発表していきたいと思っています。
井上研究室では、建物の地震応答に関わる研究だけでなく、建築物や各種構造部材の構造解析法・構造解析モデルに関する研究などを行っています。当研究室の研究に興味をお持ちいただいた方は、お気軽に連絡をいただきたいと思います。
なお、本研究では、国立研究開発法人防災科学研究所の強震観測網K-netで公開されている観測記録データを使用いたしました。感謝申し上げます。
□参考文献
(1)糸田響、井上圭一:2024年1月1日能登半島地震で観測された地震動の破壊力 倒壊ベースシヤー係数による一考察、日本建築学会構造工学論文集、Vol.71B、2025年4月
(2)麻里哲広、井上圭一、石山祐二:倒壊ベースシヤー係数スペクトルによる地震動の破壊力評価、日本建築学会構造系論文集、第530号、pp.71-76、2000年4月