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《石川》谷口吉生名誉館長との想い出
AH! vol.89 - 2025/4《from 石川支所》
髙木 愛子/谷口吉郎・吉生記念金沢建築館
□突然の別れ
2024年12月16日、谷口吉郎・吉生記念金沢建築館の名誉館長であられる谷口吉生先生がご逝去されました。金沢建築館に訃報が届いた12月21日は、奇しくも第10回企画展内覧会の前日。東京から前入りし展示の最終確認を行っている関係者の方々に気取られぬよう対応しましたが、その顔は引き攣っていたことと思います。内覧会については、中止は谷口先生の本意ではないだろうと話し合い、翌日に予定通り実施しました。
□谷口先生と金沢
谷口吉生名誉館長は、国内外に多くの優れた建築作品を設計され、北陸でも金沢市立玉川図書館(1978)や鈴木大拙館(2011)、加賀片山津温泉総湯(2012)、富山新聞高岡会館(2023)などを手掛け、歴史ある町に新たな魅力を創出してくださいました。特に金沢は、父・谷口吉郎氏の出身地であり、ご自身も戦時下に疎開されています。祖父と父から金沢の文化を教えられて育ったそうです。そのような思い出のこもった谷口家の土地と、お二人の建築資料等を金沢市にご寄附くださり、谷口先生の設計により谷口吉郎・吉生記念金沢建築館が2019年に開館しました。金沢市の建築文化の発展に大きく貢献したとして、2022年に金沢市名誉市民の称号が贈られています。
□名誉館長の姿
金沢建築館への着任時に新調した私のメモ帳を見返すと、最初のページに谷口建築設計研究所での打ち合わせ記録が書かれていました。谷口先生との初対面の緊張で記憶はほとんど飛んでしまっていますが、メモ帳には「建築専門の人を相手にするのではなく、中学生や一般の人々に分かってもらえるように」「建築は一度つくったら影響が大きいことを伝えていきたい」など、谷口先生からの言葉が綴られています。また開館前には我々を、当時はまだ公開が限られていた迎賓館赤坂離宮和風別館游心亭へお招きくださり、金沢建築館への想いをお聴かせくださいました。
開館してからも、時折ふらりとお越しになっては、「何か困っている事はない?」と尋ねられ、一通り館内を巡られた後カフェの一番奥の席でコーヒーをお飲みになるのが定番でした。その姿に気づいた来館者へ、気さくに握手やサインに応じられている姿は、伝え聞いていた谷口吉生像とは異なっており驚きました。
□金沢建築館の谷口吉生展
2021年には、谷口先生設計の美術館建築11作品を取り上げた、第4回企画展「静けさの創造-谷口吉生の美術館建築をめぐる-」を開催しました。コロナ禍で外出を控えられていたにも関わらず、内覧会と建築フォーラムにご出席くださり、谷口先生が自作について語る貴重な機会となりました。特に建築フォーラムには全国から谷口ファンが駆け付け、熱のこもった質疑応答が印象的でした。しかし残念ながら、これが金沢建築館での最後のご講演となってしまいました。
2022年に開催した第6回企画展「みんなの建築をつくる-東京都葛西臨海水族園と広島市環境局中工場-」では、企画の打ち合わせにて「設計者・施主・施工者」の三位一体が大切であることを説かれ、「関係者との対談なんかもいいね」と話が弾みました。コロナ禍で対談は叶いませんでしたが、当時の担当者へ個別にインタビューさせていただき、傑作誕生を支えたさまざまな立場からの視点を知れたことで、谷口先生が重視される「三位一体」の一端に触れられたように感じます。
□建築文化への想い
そして現在開催中の第10回企画展は、小立野の金沢大学工学部跡地へ同時期に新築移転した石川県立図書館と金沢美術工芸大学を紹介するとともに、金沢文化への波及効果を展望する内容となっています。実はこのテーマも、「2つの建築を金沢の最新建築として取り上げてはどうか」という谷口先生の提案から始まりました。最期まで金沢の建築文化の発展を願われていた谷口先生の想いも、本展を通して感じていただければ幸いです。
谷口吉郎・吉生記念金沢建築館は、昨年無事に開館5周年を迎えました。名誉館長と次の5年についてご相談していた矢先のご訃報に、今でも信じられない気持ちでいっぱいです。これまでのご指導ご支援に心より感謝するとともに、谷口先生が金沢建築館へ託された想いを胸に、これからも歩んで参ります。