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《福井》福井県初DOCOMOMO Japan選定建築物の誕生2022から福井県戦後建築アーカイブ 展の開催2025へ
AH! vol.89 - 2025/4《from 福井支所》
市川 秀和/福井工業大学建築土木工学科 教授
□はじめに 戦災・震災から立ち上がる 福井の戦後建築
2013年11月に発足した福井の建築論研究会(代表 市川秀和)は、「福井の地から建築史・建築論を考える」を大きな課題に掲げて、地元に根差した具体的なテーマを毎年設定して講演会シンポジウム・見学会等を企画し、県内外から毎回20名前後の参加者を得て、福井支所の事業にも位置づけながら地道な活動を続けてきた。特に2020年の第8回からは、ちょうど全国的に「戦後建築」を新たな研究対象に着手し始めた学術動向を踏まえて「福井県戦後建築史」を取り上げた。これにより1945年の空襲と1948年の地震によって壊滅した県都・福井市が、如何にして再建することが出来たのか、その戦後建築の歴史の解明がスタートしたわけである。なお、かかる当研究会の歩みの詳細については、拙稿「福井の建築論研究会と戦後建築史の調査活動」AH! 77号 2022/4 を参照されたい。
□五十嵐直雄「福井神社1957」:福井県初 DOCOMOMO Japan選定建築物 no.255
福井県戦後建築史の調査研究における第一歩は、福井出身の建築家であり福井大学学長となった五十嵐直雄(1915~1987:図1)の軌跡を辿ることであった。東京帝国大学建築学科へ進学した五十嵐は丹下健三や大江宏らを同期生に持ち、卒業後は満州国国務院に就くため大陸へ渡った。終戦後、ふるさとの福井へ生還し、新制・福井大学工学部建築学科の若き設計教員となり、戦後復興期の建築家として秀逸なモダニズム建築を創り出して地元建築界を先導し、また優秀な建築学生を数多く育て上げた。五十嵐の代表作「福井神社:図2」は、日本初の鉄筋コンクリート造・フラットルーフによるモダニズム建築であり、拝殿・本殿を含む全8棟が約10年を経て順次竣工した(1957~1966)。福井神社8棟の建築群は、2022年に福井県初のDOCOMOMO Japan選定建築物(no.255:図3, 4)として認められた。

図1 丹下健三(左)と 五十嵐直雄(右)1983

図2 五十嵐直雄「福井神社」1957

図3 DOCOMOMO Japan 選定建築物のプレート贈呈式:福井神社(2022.10.10.)

図4 DOCOMOMO Japan選定建築物プレート
□「福井の建築論研究会」10周年記念誌 2023年
五十嵐直雄研究に始まった福井県戦後建築史の調査研究は、戦後復興期(1945~1965)における民間設計事務所と施工会社、官庁建築課の実態解明へと徐々に進展した。その際に重要な拠点となったのは、1950年制定の建築基準法・建築士法にともなって1952年に発足した「福井県建築士会」であり、ここから戦後福井の建築界における技術者たちのネットワークが浮上してきたのである(図5)。
こうして福井の建築論研究会は、前半で福井における森田慶一・増田友也との関わり、その建築論の京都学派の受容をテーマとしてきたが、後半で戦後復興期における地元建築界の実態解明へと至ったことで一つの学術成果に纏まったことから、10周年の2023年に記念誌を発刊した(図6)。

図5 戦後福井の建築技術者ネットワーク

図6 福井の建築論研究会 10周年記念誌「建築論」の京都学派の地域的展開2023
□福井県戦後建築史のアーカイブ活動について
福井県戦後建築史をめぐる調査研究活動の次の新展開として、これまでの現地調査でトレーシングペーパーや青焼図など当時の建築図面を確認する機会を得たことにより、2024年から貴重な建築図面のアーカイブ活動に取り組んできた。
また近年、現存する優れた戦後建築が、全国各地で文化財認定やDOCOMOMO Japan選定建築物としてたびたび認められ始めたものの、それはごく少数のケースであって、全く評価されないまま建て替えの対象となって何一つ記録も残せず現在取り壊されている危機的状況である。2015年から文化庁の「近現代建造物緊急重点調査」が着手されたように、戦後建築の全国的調査研究が急務である。
そこで2025年は、福井県の戦後復興期を代表するモダニズム建築作品(1950年代~1970年代)の図面(トレペ・青焼図など)を広く公開展示し、地元の戦後建築のもつ文化財的価値を見直すとともに、所謂「ローカル・アーキテクト」像の探究する機会としたい。さらに建築アーカイブの継承の重要性を認識し、当時の図面の語るコトバから新たな建築創造へと繋がることも期待したい。
アーカイブ展の具体的な展示内容とスケジュールは、以下の通りである。
「福井県戦後建築アーカイブ展」開催(会場:福井県立美術館)2025年
主催:福井工業大学市川研究室
後援:日本建築学会北陸支部福井支所、福井県建築士会、福井県建築士事務所協会、
日本建築家協会JIA北陸支部福井地域会、北陸工業新聞福井支局
■第1回 2025年4月18日㈮, 19日㈯, 20日㈰(*20日午前:展示解説)
「奥越のモダニズム建築 乾 馨 と 伊藤 貞」展
同時代紹介:中谷肇・仙坊光男・小木藤八郎・赤土善蔵・木下賀之ほか
■第2回 2025年5月 30日㈮、31日㈯、 6月1日㈰(*1日午前:展示解説)
「モダニズム建築の精華 五十嵐 直雄」展
同時代紹介:吉田鉄郎/富山、谷口吉郎/石川、同期生:丹下健三・大江宏
■第3回 2025年9月13日㈯、14日㈰、15日(㈪・祝) (*15日午前:展示解説)
「社寺建築のモダニズム 高木 相良」展
同時代紹介:五十嵐直雄・伊藤道夫・上川禎彦・白崎敏雄ほか

図7 福井県戦後建築アーカイブ展 2025 チラシ
福井の建築論研究会を運営する福井工業大学市川研究室は、「福井の地から建築史・建築論を考える」という基本視座から、地元の「戦後建築界」をフィールドワークにして現代へ繋がる様々な重要課題を継続して取り組みながら、地域固有の「ローカル・アーキテクト像」を問い深めて行きたい。