Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.89 - 2025/4《from 富山支所》

籔谷 祐介/富山大学学術研究部芸術文化学系

本企画は、富山県黒部市のYKK関連施設を視察し、YKKグループが取り組むまちづくり・住まいづくりについて学ぶことで、環境に配慮し快適な住空間創出を実現する持続可能な社会について考えることを目的に、2024年10月1日(火)に開催した。参加者は、学生、実務者、大学教員など計19名で、県外からの参加も見られた。見学した施設は①K-HALL、K-TOWN、②パッシブタウン、③I-TOWNの3つで、富山大学高岡キャンパスに集合し、バスで巡った。それぞれについて紹介していく。


□K-HALL、K-TOWN 
K-HALLおよびK-TOWNは、東京大学名誉教授の大野秀敏氏が設計したもので、あいの風とやま鉄道黒部駅前のまちづくりの一環として建てられた。これらは、駅前のランドマークとなるK-HALLと、老朽化したYKKグループの社有単身寮の代替施設となる100戸の住居を整備するプロジェクトである。当日は、YKK株式会社の眞岩拓郎氏にご案内頂いた。

K-HALLは、見る方向によって異なる表情を見せる建築で、断面が半分アーチのチューブを3本組み合わせた明快な原理で構成されている。ヨーロッパの広場にある教会をイメージし、ファサードが駅前広場の顔を作り出している。機能としては、ホール、カフェ、ラウンジ、ミーティングルーム、店舗(コンビニ)が入っている。内壁は、厚さ5mmに曳いた富山県産杉板を反らせ、両端を白く塗装された鋼製の溝に差し込んで、小さなアーチを作り出している。それを反復させることで大きく美しいアーチをつくり出しており、内部空間は複雑な曲線を描いている。細部までこだわり抜いたなんとも上品な建築であった。(図1)


図1 K-HALL


K-TOWNは、4戸1棟の低層戸建て形式の単身寮を、駅前の複数の飛び状の敷地に25棟を分散配置させている。まちに溶け込むことをコンセプトととし、街区内の通路は一般の人も通り抜ける様子が見られるという。また、A・B街区は防災的観点からRC造、C街区は住宅用窓の活用という点から木造とされている。RC造のA・B街区では戸境壁と床の一部を木造とし、将来の可変性にも対応している。比較的小さめの窓が様々な高さに配置され、どのような姿勢であっても外部空間が見えるように工夫されている。(図2)


図2 K-TOWN


□パッシブタウン
社宅跡地を活用して進められているパッシブタウンは街区ごとに異なる建築家が設計している。ここからは、YKK不動産の鈴木修一郎氏と伊藤遥氏にご案内頂き、第1〜3街区を中心に見学させて頂いた。(図3)


図3 パッシブタウン オープンスペース


第1街区は、小玉祐一郎氏が設計したもので、黒部特有の季節風「あいの風」を取り入れるために、各住戸が外部吹き抜けを囲む平面計画とし、屋上には通風を促進するためのウィンドベーンを設置している。また、様々な風向きに対応できるよう、窓には多様な開放形式を採用している。他にも環境に対する配慮として、木質バイオマスボイラー、太陽熱、地下水といった再生可能エネルギーと地産素材を積極的に利用している。(図4)


図4 パッシブタウン 第1街区


第2街区は、槙文彦氏が設計したものである。雑木林の中に4階建ての住棟6棟を分棟配置し、中央のコモンスペースには東屋が配置され、子どもの遊び場やお年寄りの休憩場所として利用される。住棟は各階2戸で、室内はテラスを中心に配置されており、3面が外部につながる計画となっている。このテラスは、光や風をコントロールする自然との緩衝帯となっている。

第3街区は森みわ氏が設計したもので、築約30年ほどのファミリータイプの社宅2棟をリノベーションしたものである。既存RC躯体に外断熱および樹脂窓を設け、外皮強化をするとともに、バルコニーを新設することでヒートブリッジ対策を行っている。1棟は4階部分を減築することで構造負荷の削減を行うとともに、屋上にはテラスが設けられている。(図3)

□I-TOWN
I-TOWNは、みかんぐみが設計した低層木造2階建ての分棟形式の社員向け単身寮である。市道を挟んで北側にはセンターハウスがあり、1階に食堂、2階に共同浴場や談話コーナーが配置されている。寮生が部屋にこもるのではなく、寮生同士の交流を促している。冬季に降雪が多い黒部の特性を考え、住戸群をアーケードで繋ぐと共にランドスケープでは季節の花が楽しめるようになっている。地域の人々が憩いの場として使えるように配慮され、地域に開くことが意図されている。紫波町のオガールセンターを想起させる。
環境面では、木質チップを使うバイオマスボイラーを導入し、各部屋や大浴場へのお湯の供給に活用している。また、使用する冷暖房、照明のエネルギーは屋根に載せた太陽光発電が利用されている。外壁には富山県産材が採用されている。(図5)


図5 I-TOWN


□最後に
以上の視察を通して、YKKグループは、地域特性を活かしたまちづくり・住まいづくりにおいて、環境への配慮と地域コミュニティとの調和を実現するための壮大な実験的取り組みを行っている。これらのプロジェクトは、持続可能な社会の実現に向けた具体的なモデルケースとして、国内外のまちづくりに大きな示唆を与えるものである。

最後に、本企画にご協力を下さいましたYKK株式会社の眞岩拓郎氏、YKK不動産の鈴木修一郎氏、伊藤遥氏、野上緑化の野上一志氏、飛世裕香氏に心より感謝申し上げます。

参考文献
K-HALLホームページ:https://www.k-hall.jp/outline/
K-HALLホームページ:https://www.k-hall.jp/outline/page02.html
みかんぐみホームページ:https://mikan.co.jp/archives/7984