Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.86 - 2024/7《from 長野支所》

寺内 美紀子/信州大学工学部建築学科 教授
加藤 あゆ /信州大学大学院総合理工学研究科工学専攻建築学分野1年 寺内研究室
松高 葵生 /同上 
海道 遥佳 /同上 
柴崎 仁美 /同上 
中川 颯人 /同上
林 遼太郎 /同上

□はじめに
 信州大学工学部では、学生独自の視点から大学の魅力や取り組み、学生生活を大学と共同で発信することを目的に、広報学生部会が発足された。今年度は建築学分野と情報数理・融合システム分野の学生計8名で構成されており、まず広報活動の準備として工学部にある様々な高性能機材の講習を受け、これまでも授業や研究で使われてきたこれらの機材を今後も学生が使いこなせるように、操作マニュアルを製作し、何に活用していくのか、検討を開始した。初年度の活動として、10月12日開催の秋のオープンキャンパスを皮切りに小学校文化祭や産業フェアへの出展、女子中高生向けのワークショップ協力など、様々な広報活動を行った。

□展示計画と製作
 オープンキャンパスでの広報活動の計画を練る中で、来場者に信州大学の学生生活のリアルな姿を知ってほしいと考え、「信大生のイマ」をテーマに展示を行うこととした。工学部学生全員にアンケートを依頼し、その結果を信州大学国際科学イノベーションセンターのエントランスから2階までの通路に展示することとした。「信大生のイマ」の展示案内を会場入って正面の吹き抜けに置き(写真1)、会場入り口から2Fセミナースペースまでの動線に沿ってアンケート結果をオブジェ的に創作して展示した。1Fエントランスホールには「時間の使い方」を円グラフのパネルにしたモビールを置き(写真2)、「お金の使い方」の棒グラフを階段の蹴込みに貼った(写真3)。2Fへ繋がるホワイエには「研究室って何?」として学生に募った自身の研究室や机まわりの写真を天井から吊るし、オススメの本を飛び出す絵本と大きなQRコードとして表現した(写真4)。また、3Dプリンタで造形したボタンによる来場者参加型の「二択アンケート」を展示の各所に配置した。ボタンの下にアクリル板を敷き電子回路が見えるようにしたり、質問パネルをレーザー加工機で製作したり、工学部の機材を紹介しつつ、学内備品を利用したデザインとした(写真5)。


写真1 展示「案内看板」


写真2 展示「時間の使い方」


写真3 展示「お金の使い方」


写真4 展示「研究室って何?」


写真5 展示「二択アンケート」


□信大工学診断
 信州大学工学部は2026年に1学科10コースへの改組を予定している。特に2コース学ぶ先鋭融合コースはこれまでになかったもので、認知度をあげる必要がある。そこで、展示の締めくくりとして、来場者がどのコースに向いているかを「現在編」と「未来編」の二方向から診断するYES・NOチャートを2FのEVホールに展示することを考えた。工学部各学科の先生にご協力いただき、他学科との研究内容の違い、研究室の学生の特徴などをヒアリングして質問項目を作成した。EVホール前のフロアタイルの幾何学模様をさらに増幅させるようなデザインとし、往路で「現在編」復路で「未来編」の2種のチャートを溶剤インクジェットプリンターで印刷したシールを貼って配置した。来場者が最後まで飽きることなく診断を楽しめるように、EVホール全体に複雑に交差するチャートの動線をデザインした。

□オープンキャンパス開催
 アンケート結果の展示の他にも機材の説明パネルや袖看板、来場者に展示を見て回ってもらうための誘導サインなどで会場全体を装飾した。オープンキャンパスが始まると同時に、多くの高校生や保護者が会場に足を運び、各展示を熱心に見る来場者で賑わった。来場者が興味を持って展示を楽しむことができるよう、目線より上に吊るした写真やキューブで構成した立体のQRコードは、狙い通り多くの人が足を止め、覗き込んだりカメラを向けたりしていた。中でも「信大工学診断」は、高校生だけでなく大人や小学生も楽しめる内容で、診断チャートをたどる人で賑わった(写真6)。


写真6 展示「信大工学診断」


□まとめ
 オープンキャンパス終了後に出展した小学校文化祭では、工学の楽しさを伝えるため「二択アンケート」や「信大工学診断」を小学生用に再編成した。こうして、オープンキャンパスで作成した展示物を用いて、小学生が大学生と一緒に学んで遊べるワークショップを行った。
 広報学生部会発足初年度の活動として、大学にある様々な機材を学び、自分たちでデザイン・製作した展示物をオープンキャンパスで発表した。高性能な機材は緻密なデザインが可能であり、人の手では表現しきれない細部の表現にもこだわることができた。また、展示会場の壁や床に対し表現の手段が増えることで、建物全体を使った展示空間をデザインすることができた。機材講習から始まった広報学生部会としての活動は、オープンキャンパスの目的設定から表現方法の模索、展示製作までの経験を積むことができた。