Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.88 - 2025/1《from 石川支所》

佐藤 弘美/金沢工業大学建築学部建築学科 講師
須田 達/金沢工業大学建築学部建築学科 教授

□はじめに
 令和6年1月1日に発生した能登半島地震では広範囲に地震被害が生じ,特に奥能登地域に甚大な被害をもたらした.日本建築学会北陸支部と同木質構造運営委員会では,本地震による建物の被害状況を記録し,被害規模の把握を目的として悉皆調査を行った.本稿では,悉皆調査の対象地域や調査方法,調査結果および木造建築の被害状況について報告する.なお,本稿は須田が8月に2024年能登半島地震災害調査報告会で行った報告をもとに編集したものである.


□悉皆調査の対象地域および調査方法
 悉皆調査の対象地域は,地震により大きく被害を受けた地域,津波による被害を受けた地域,様々な構造種別・用途の建物が混在する地域,また2007年能登半島地震の際に被害調査を行った地域などを検討した.珠洲市正院,飯田,宝立,輪島市河井町,鳳至町,門前町門前,門前町道下,門前町黒島,穴水町の9地域とした(図1).


図1 悉皆調査対象地域


 悉皆調査は,過去の地震で行われた被害調査に準じて行った.調査では対象地域内の建物すべてについて外観調査を行う.外観調査では調査シートを用いて,建物の構造種別や推定建築年代,破壊パターンによる被害程度の分類など統一された指標により行った(図2).また,本調査では,新たにアプリを活用し建物の位置情報を登録するなど,効率的な調査方法の導入を試みた.


図2 悉皆調査シート


□悉皆調査の結果
 悉皆調査の結果として,約6000棟の外観調査結果を報告する(2024年8月末時点).なお,本調査結果は精査中であり,最終的な結果については令和6年能登半島地震被害調査報告書にて報告予定である.地域ごとの調査棟数は珠洲市正院766棟,飯田174棟,宝立742棟,輪島市河井町1005棟,鳳至町937棟,門前町門前408棟,門前町道下419棟,門前町黒島488棟,穴水町1154棟であった.構造種別については調査対象の約8割が木造建築であり,建物用途は約7割が住宅を主とするものであった.全体の約75%が被災しており,特に珠洲市正院,宝立においては全壊以上の被害(D4-6)が顕著であった(図3).また,被害調査結果の一例として,輪島市河井町・鳳至町の被災度分布図を示す(図4).被災度ごとに赤:全壊(D4-6),黄色:半壊(D3),緑:一部損壊(D1-2),グレー:無被害(D0),白:調査結果精査中としている.


図3 地区別にみる被災度)


図4 被災度分布図の例(輪島市河井町・鳳至町)


□木造建築の被害状況
 悉皆調査結果の約8割を占める木造建築のうち,7割以上が住宅を主用途とするものであり,次に多いのは倉庫などの簡易的な建築物であった.建築年代は古いものが多く,4割以上の建物が1981年以前に建築されたとみられる(写真1).外観調査の結果から,住宅建築は75%以上が被災しており,全壊率は約30%,そのうち6割以上が非常に古い年代のものであった.一方,社寺建築(本堂など主要な建物のみ)の被害は甚大であり,90%以上が被災し,全壊率も50%を超えていた.社寺建築は65%以上が非常に古い年代に建築されたものであった.古い木造建築は,耐震性能が不足していた可能性や経年劣化による耐震性能の低下なども考えられる.今後,木造建築の被害要因について分析を進めることで,復旧復興や今後の地震対策に役立ていきたい.


写真1 古い木造建築の地震被害(2024年1月25日撮影)