Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.49 - 2015/01《from 福井支所》

原田 陽子/福井大学工学部建築建設工学科 准教授

□新栄商店街と新栄プロジェクトについて
 福井市中心市街地では、空き店舗や青空駐車場が虫食い状に増加し、近年、中心市街地の歩行者数や来店者数が減少を続けるなどの状況に陥っている。一方で、新栄商店街周辺地区(以下、新栄地区)は、JR福井駅西口に近く中心市街地の商業の中心部に位置しながら、老朽化した木造建築物が4m未満の路地に面して密集し、福井市中心市街地の中でも際立って空き店舗の数が多い状況となっている。
 こうした中で2013年度から私たちの研究室では福井市との共同研究の一環として、新栄商店街周辺地区を対象に、地権者や地元のまちづくり関係者などへのヒアリングやアンケート調査を実施した。そして調査結果を踏まえて2014年度からは、新栄地区内に位置するコインパーキングを夏と秋の12日間ずつ借りて「新栄テラス」と称する屋外広場を設けると共に、その駐車場に面する空き店舗を借りて、7月末から11月上旬まで「新栄リビング」と称する情報交流などのサロンとして活用するプロジェクトに取り組むことになった(図1、写真1、写真2)。


図1 「新栄テラス」と「新栄リビング」の場所


写真1 駐車場活用広場「新栄テラス」


写真2 空き店舗活用サロン「新栄リビング」(左:中から、右:外から)


□駐車場を活用した仮設テラスの空間デザイン
 限られた予算のため駐車場を活用したテラスの設営と撤去作業は1日で行い、そのしつらえの制作や施行作業も学生自身で行うという条件の中、空間デザインを検討した結果、90cm角のウッドデッキを敷き詰めると共に、車止めを隠すことも兼ねた180cm×90cmのベンチ12台を制作することになった。結果的に、シンプルな形のしつらえにしたことで、イベントごとにウッドデッキやベンチの敷き方を変えることができるなど、仮設であることのメリットや面白さもあった。
 また、ウッドデッキやベンチに県産材を使用していたことから、秋のテラスでは、福井県県産材活用課や美山町森林組合のご好意で県産材のウッドデッキを大幅に拡張できることになった。

□利用状況、地元市民の反応
 特に夏のテラスでは十分な準備期間もないままにスタートしたが、特に新栄テラスでは、予想以上に様々な個人や団体から多様なイベントの企画の申し出があり(写真3、写真4)、夏の期間には512人、秋の期間には871人の方々に来場して頂いた。来場者の属性を見ると、10代が25.4%、続いて20代・30代が47.0%、40・50代が19.5%、60代以上が8.2%であり、比較的若い世代が多く訪れたことが分かった。また、来訪者の構成では、1人が35.5%、友人が23.7%、カップル・夫婦が14.4%、ファミリー(子供連れ)が24.6%であり、1人でも気軽に立ち寄れると共に、様々な方と来られたことがわかった(写真5)。


写真3 やきいもパーティー(地元公民館主催)


写真4 キャンドルヨガ(地元ヨガ教室主催)


写真5 子供連れファミリーで賑わう週末のテラス


□新栄プロジェクトの意味と今後の課題
 今回の期間中には、歩行者の通行量調査や来場者へアンケート調査を実施し、事業終了後は地元の店主などへのヒアリングを実施する予定であるが、現時点までの来場者や地元からの反応としては非常に多くの好意的な反響があり、特に駐車場を活用した新栄テラスに対しての利用ニーズが高いことが明らかになった。これは自家用車に依存したライフスタイルが蔓延している福井市においても、歩いて散策したくなるような、まちなかでの緑豊かで創造的な過ごし方を創出できるような屋外広場を望んでいることを示している。
 今後、地元の人と連携して、どのように今回の活動を継続し発展させて行けるのか、またイベント広場としての活用だけでなく、福井のまちなかで過ごす「日常の時間や内容の質の向上」にも、どのように繋げて行くのかを考えて行くことが重要であると考える。