《福井》シンポジウム「増田友也の思索をめぐって」
AH! vol.49 - 2015/01《from 福井支所》
市川秀和/福井工業大学建築生活環境学科 教授
《2014建築文化週間(北陸支部福井支所主催)報告》
第4回 越前若狭の建築文化探訪/第2回 福井の地から建築史・建築論研究を考える
□シンポジウム概要
日 時:10月25日(土)午後2時~午後5時半
場 所:アオッサAOSSA6階601-A研修室
記念講演会・講師:中村貴志(建築論研究所)
コメンテーター:田路貴浩(京都大学)、市川秀和(福井工業大学)
参加者:22名
□開催の経緯
昨年度の企画「森田慶一『西洋建築史概説』刊行50周年を記念して」(記念講演:加藤邦男氏)を受け、今年度は生誕百年を迎えた増田友也(1914~1981)のシンポジウムを開催した。 なお京都大学の森田と増田は、戦後の福井大学の建築学教育に深く関わったことから、この福井支所での連続企画が実現した。
□内容
記念講演の前に、増田友也の経歴や業績について、支所事務局より簡単な紹介があった。 増田は大正3年に兵庫県・淡路島に生まれ、昭和14年に京都帝国大学建築学科を卒業後、満州炭鉱工業会社に入社して戦中期を大陸で過ごした。 終戦後、シベリア抑留を経て帰国し、昭和25年に母校の講師となった。 森田慶一・村田治郎の下で研究教育に着手した初期の増田は、まず未開社会の民族生活にみる原始的な空間構造を解明して博士論文に纏めるとともに、西洋思考による日本建築の空間現象を独自に考察した。 さらに中期の増田は、建築と庭園、自然の全体性を風景論から究明し、そして後期では道元やハイデッガーの哲学に基づく存在論に踏み込み、所謂「建築論の京都学派」の継承展開を遂行した。
そこで記念講演会では、増田の門下生の一人で、その思想を継承する中村貴志氏が講演した。
学生時に初めて接した師・増田との決定的な出会いから話し始めた中村氏は、代表作の「東山会館」保存活動や「京都大学総合体育館」「鳴門市文化会館」の制作現場、またアトリエでの日々などに触れながら、増田独特の思索世界へと徐々に歩み寄った。 そして「守拙・曽謙」の号をもつ増田の存在の深淵へ近づくため、作品集に収められた揮毫「」、そして遺された『曽謙句集』が取り上げられ、中村氏の鋭い洞察と問いの射程が悠々と語られるなかで、会場の参加者は、増田の人間的な魅惑に包まれたようであった。
次の質疑討論では、コメンテーターの田路貴浩氏が中心となって進行した。
田路氏は、増田を直接知らない現代のわれわれが如何に受け止めて理解すべきなのかと前置きした上で、増田の思索と制作について問いを投げかけた。 それに対して中村氏は、通常の建築家像にみる作品と思想の関係、つまり作品や制作を理論づけ、役に立つ方法論のような捉え方が、増田の場合に適切かどうか考えることが先ず必要であり、少なくとも増田には、そうした通常の理解で捉えきれず、より根本的なアルヒテクトーンや人間存在の視座から見極めることが大切ではないかという主旨で説かれた。 さらに会場から「」にみる「非」の質問が出されるなど、内容的に深い討論が活発に交わされた。
最後に総括として白井秀和・福井支所長が、学生時代の強烈な記憶として「増田友也のハイデッガー講義」について言及され、その鋭意な洞察力と思想的な魅力が指摘されるとともに、今後のさらなる増田友也研究が展開されることを期待して、閉会となった。
なお当日は、北陸の清秋の恵まれた天候のなか、大阪・京都からも積極的なご参加をいただき、福井に於ける増田友也の生誕百年記念行事は、とても充実したものとなりました。この企画の実現にあたり、ご協力いただいた皆様に深謝します。さらに今後も福井支所の例年行事として継続しますので、どうぞご期待ください。