《長野》筑北ジャンブル広場 -地域資源による日常使いの避難広場の提案‐
AH! vol.86 - 2024/7《from 長野支所》
寺内 美紀子/信州大学 工学部 建築学科 教授
飯田 竜太朗/信州大学大学院 総合理工学研究科 工学専攻 建築学分野2年 寺内研究室
石原 大雅 / 同上
青木 健祐 / 同上
入江 勝也 / 同上
舘柳 光佑 / 同上
中尾 啓太 / 同上
□はじめに
寺内研究室は、令和5年6月から令和6年4月までの期間、筑北村立旧筑北小学校を「ちくほくシャインカレッジ」として開所した社会福祉法人北アルプスの風との共同研究の一環として、当施設の避難所指定に向け、校庭の一部に避難広場を計画した。計画を練る中で、旧飼育小屋やコンクリート供試体など、小学校特有の残存物を活用できないかという議論が持ち上がり、また、小学校だけではなく、筑北村および周辺地域にねむる資材を探し集め、それらを活かした避難広場に改修する方針となった(図1)。
□資材調達
筑北村周辺の石材店、コンクリート製造業者、工務店など約30の業者をピックアップし、協力の回答が得られた6社を実際に訪れ、資材の視察や意見交換を行った。筑北村の根石工務店や窪田工務店には大小さまざまな木材が、松川村の宮下石材店には墓石を製造する過程で発生する花崗岩などの端材があった。その他にも、コンクリート土木工事用の間知ブロックといったコンクリート二次製品などがあり、これらを何に活用するか議論した(図2)。
□基本計画
旧筑北小学校に残存する旧飼育小屋のフレームを利用して広場の中心施設とすることとした。現在、旧筑北小学校は一部をちくほくシャインカレッジ(障がい者支援施設)や放課後児童クラブとして利用されている。この施設の利用者や地域住民の日常利用を想定しつつ、イベントや災害時に機能する広場を提案した(図3)。放課後児童クラブの小学生の活動の場や施設利用者の休憩所として小屋を改修し、ジャンブルステーションと名付けた。さらに、提供資材を外構家具にするために、製材類はベンチやデッキに活用し、生コン製造業者からのコンクリート供試体は花壇ブロックに、耐火レンガをかまどに組み立て災害時には炊き出しに使われる「かまどベンチ」を想定した。これらを北アルプスの風、筑北村へプレゼンし、実施へ移る運びとなった(写真1)。
□実施計画と製作
提供資材の規格や量を表にまとめ、資材の全容を把握しながら実施図面を作成した。製作では地元の大工さんや施工業者の方に工具類の使い方から指導していただき、学生を中心にジャンブルステーション・外構家具の製作を行った(写真2)。旧飼育小屋の鉄骨に合わせた60mm程度の角材をジャンブルステーションや家具の構造材として使用し、小断面材はジャンブルステーションの壁のモザイク仕上げに使用することとした。災害時にはこの仕上げ材を取り外し、炊き出しや暖をとる燃料として利用することを想定している。
□ワークショップ
ちくほくシャインカレッジの利用者や放課後児童クラブ、近隣の幼稚園の子どもたちとともに、かまどを使ったワークショップを行った。災害時を想定し、火起こし、足湯体験、棒パン作りに取り組んだ。また、子どもたちと一緒に花壇の花植えを行い、筑北ジャンブル広場の完成となった(写真3)。
□まとめ
以上、地域資源の調査とそれらの活用方法の検討を経て、子どもたちや地域住民の日常利用を前提とした避難広場を製作した。ジャンブルとは「ごちゃまぜ」という意味で、障害のあるなしに関わらず、あらゆる人があらゆる活動を自由に豊かに行える場を意味している。こうした場の創出には「ともに考えともに作る」ことが重要と考えた。このプロジェクトは、近隣の方々からの資材提供や様々な協力なしでは成り立たなかった。偶然にも、まだ使い道のある建築資材や道具類の提供を受けることができたことでジャンブル広場の完成に繋がったが、設計の前に何ができるのかを考えたことが大きい。設計者が一歩深く地域に入り込み、こうした資材を有効に活用することで、まちの拠点整備に役立てることができる。このような取り組みは、持続可能な地域づくりの一環として、今後さらに重要になっていくだろう。