Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.86 - 2024/7《from 新潟支所》

松井 大輔/新潟大学工学部工学科建築学プログラム 准教授
中村 孝也/新潟大学工学部工学科建築学プログラム 教授


□はじめに
 令和6年1月1日に発生した能登半島地震では、北陸地方の各地で大きな被害が発生した。新潟市内でも建物の倒壊等が見られ(写真1)、広い範囲で地盤の液状化現象による建物被害が報告されているが、県外での認知度は低い。そこで本稿では、改めて地震発生直後と現在の新潟市内における被害の状況を報告したいと考える。なお、本稿は中村が1月に日本建築学会北陸支部で行った報告と、松井が4月に日本建築学会都市計画本委員会で行った報告を再編集したものである。


写真1 神社の手水舎の倒壊(新潟市西蒲区曽根、1/4撮影)


□新潟市西区の被害状況
 気象庁の震度データベースによると、能登半島地震での新潟県内各地の震度は長岡市で震度6弱、新潟市中央区・西区・南区・西蒲区や三条市、佐渡市など広い範囲で震度5強だった。一方、住宅などの建造物の被害は、県全体2.4万件弱のうち1.7万件強が新潟市に集中している。特に、西区で1.1万件を超える被害が出ており、場所的な偏りが顕著だった。
 西区では、主に砂丘列の裾を東西に走る県道16号線の沿道において、液状化とそれに伴う建物等への被害が広い範囲で見られた(写真2)。液状化による砂の噴出だけでなく、地盤が道路方向へスライドしている様子も見て取れる(写真3)。坂井輪中学校の南校舎は損傷が激しく、一部校舎の改築が検討されている。このほか、善久やときめき西など信濃川左岸の地区でも同様の被害が見られた。これらの地区は、国土交通省北陸地方整備局による「液状化しやすさマップ《新潟地域》」における危険度3から4、かつ液状化履歴のあるエリアと合致しており、改めて液状化への対策の重要さを思い知らされたといえる。


写真2 液状化による砂の噴出(新潟市西区寺尾、1/6撮影)


写真3 地盤のスライドによるせり上がり(新潟市西区大野、1/3清水徹氏撮影)


□復旧の状況
 地震から5か月が経過した。しかし、西区大野では被災建物がほぼそのままの形で残されている(写真4)。一部の店舗は場所を変えて営業を再開したが、本格的な復旧までにはもう少し時間がかかりそうである。今回の地震による新潟市内の被害は半壊・一部損壊の数が圧倒的に多く、西区の広範囲に薄く広がっているため、復旧にも影響を与えている。すでに、新潟市をはじめとして関係各所が復旧に尽力しているが、対応すべき事項が多すぎるのだろうと推察できる。低密度に広がった市街地における都市災害に対して、建築・都市計画がどのように将来像を描けるか。学会からもさまざまな知見を提供することが必要とされている。


写真4 傾いた建物がそのまま残されている町並み(新潟市西区大野、6/8撮影)