《富山》伝統文化財の3次元データ化
AH! vol.85 - 2024/4《from 富山支所》
大氏 正嗣/ 富山大学芸術文化学部 教授
□伝統文化財の3Dスキャニング
私が所属する富山大学芸術文化学部は付属機関として「文化財保存・新造形技術研究センター(通称:技藝院)」を有しており、2020年4月から研究調査を行っている。それ以前より、関係教員が富山県内あるいは県外においても様々な文化財の修復に関与してきた。ただ、無形文化財に登録された各地の祭りにおいて用いられる曳山や行燈、その他の伝統文化財は使用が前提となっているため徐々に劣化していくこともあって、継続的な修復作業が求められている。問題は、こうした修復作業は地域により用いられている素材が異なっており、あるいは架構の組み方などが違っているなど、個別の判断が重要となる。一方で、国宝や重要文化財には至らない文化財の修復方法には確固たる基準は存在していないのが実情であり、多くは以前より関与している職人たちの個別の技量に依存している。
技藝院ではこうした文化財データ保存や修復への基盤として3D技術を導入することで、より効率的かつ安定した修復方法の確立を推し進めている。使用する機器としては、3Dスキャナーによる文化財や工芸品のデータ化に始まり、3次元データ上での修復方法の検討や、3Dプリンタを用いたモデルの作成から精密鋳造への展開まで行っている。
技藝院では私の担当は、伝統的木造住宅の保存活用(3Dデータの作成)および曳山や行燈のデータ化および修復指導である。現在、富山県南砺市城端における曳山の修理において簡易型スキャナーを使用して修復方法の検討に用い、今後も曳山の3Dデータ化を徐々に進める予定である。また、同じく南砺市福野夜高祭行燈の3Dスキャニングを今年のGWごろに進めていくことを計画している。実際に使用されている行燈スキャニングの準備として、2023年9月に南砺市福野文化創造センター「ヘリオス」に展示されている行燈の3Dスキャニングを実施した(写真1、図1)。使用したスキャニング装置は、ライカジオシステムズのBLK360 G2である。またメーカーの協力を得てハンディタイプのBLK2GOも併用した。以下に福野夜高行燈の写真と、スキャニングデータを示す。
□伝統建築物のスキャニング
スキャニングは、曳山や行燈だけではなく伝統的建築物や街並みに拡大していく。3Dデータ化の方法としては、スキャナーによる方法と多くの画像データをソフト的に処理するフォトグラメトリがあるが、建築物のデータを本格的に活用するためにはできる限り精密なデータを取る方が良い。ただ、屋根上など地上からはデータが撮れないケースもありドローン撮影データとの融合などを含め、使用可能なデータのレベルに関する検証を進めている。以下に、旧富山銀行本店の外観データのデータを示す(写真2、図2)。今後はこうした3Dデータの収集だけではなく、その活用方法に関しても研究を進めていく予定である。