《福井》小規模自治体の持続可能性に向けた町営住宅建設
AH! vol.85 - 2024/4《from 福井支所》
内山 章/株式会社エネルギーまちづくり社 取締役
池田町は福井県東南部の岐阜県境に位置する人口約2500人、面積の90%以上を山林に囲まれた地域である。夏は比較的涼しく冬は県内有数の豪雪地帯である。山間僻地とも言えるこの地で、高性能な町営住宅を建設した。
1 池田町との出会い
ほとんどが山間のため居住エリアも限られ、とてもコンパクトな町というのが第一印象であった。ここで市民向けのワークショップを兼ねて既存住宅を断熱改修することで、移住者の「お試し住宅」にできないかという相談があった。その後、2021年に高性能なエコハウスを提案し「地域分散型町営住宅新築工事設計業務」を受託した。
2 なぜ高性能な町営住宅なのか
過疎化の進む中山間地域において、町営住宅の高性能化は大きな意義がある。一つは、自然豊かな生活を望む移住者は多いが、逆にその厳しさ故、移住が定着しないことである。池田町でも「住まいが寒い」ことを理由に移住が定着しないことが重なった。もう一つは、高齢化の局面において住民の健康寿命をいかに伸ばすかが、自治体運営においても重要な施策ということである。住宅の高性能化が健康に大きく寄与することは、ここ10年ほど続けられている国交省主体の調査(※1)でも明らかである。この町営住宅を「池田町モデル」として普及させていくことで、池田町のような小規模自治体の持続可能性に寄与することが期待できる。
3 池田町モデルの概要
2025年に断熱等級4が義務化されるが、それでは脱炭素に間に合わないことを理解している自治体では、断熱等級6もしくは7を推奨する動きがある。本件の断熱性能の設定についても同様の依頼があった。
プランについては次のとおり計画された。
・建物は敷地内除雪作業を考慮し、極力南面に正体するよう配置。
・屋根勾配を十分に取り、棟に「雪割」を設置(※2)。敷地内に雪を落とし残置を想定。
・屋根から落ちた雪の量を想定し、基礎高を800mmとした。
・建物内屋根下空間は所有車1台が置けるほか、外部作業場としても想定。
・1階は土間を大きくとり玄関から吹抜けのあるLDKまで一体化。
・主に個室で構成される2階は稼働間仕切りで区切ることを目的。
また断熱仕様、設備仕様、外皮性能は下記。
・基礎:スタイロエースII t50(基礎下断熱) /スタイロエースII t100(スカート断熱)
・壁:ネオマフォームt30(付加断熱)+ネオマフォームt100
・天井(屋根):高性能グラスウール 16K t300
・開口部 玄関:YKKapコンコードS30 C10、サッシ:YKKap APW430(樹脂サッシ)
・換気設備 第一種換気:ダクト式全熱交換器 AVH-95 サベスト
・空調設備 ルームエアコン:MSZ-HXV2524-W 霧ヶ峰(8畳用×2台)
・外皮性能 Ua値:0.22w/㎡k(断熱等級7相当)/C値(外皮相当隙間面積):0.3㎠/㎡
・エネルギー需要 年間暖房需要:48.94kWh/㎡年/年間冷房需要:15.13 kWh/㎡年
4 今後の課題
このモデルをいかに普及し定着させていくかが今後の課題となる。住民への啓発も重要であるが高齢者が多い地域では特に新しい試みは普及しづらい。町営住宅を多くの地域住民が体験することが難しいのは確かだが、町として上手に運営・利用していただきたい。また地域事業者育成も課題である。住民の啓発ができたとしても、それを正確な知識のもと建てられる事業者がいなければ、普及はおろか今後再現できない。今回設計監理の段階で施工者に向けて高性能の意義と技術について勉強会を開催した。これは今後も継続されていくべきと考える。
また輸送によるCO2排出削減の観点からも地域材利用を推進したいが、その調達に課題がある。木材乾燥施設を町内に持たない地域では軸組材の自然乾燥になるが、乾燥期間が1年ほどかかるため住宅建設には合わない。そのためにはたとえば町内の住宅新築にあたっては、一部地域材の使用を法整備化し、常時ストックが必要となるようにすることも考えられる。
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住宅の性能を考えることが小規模自治体の脱炭素政策や自立、持続可能性を促すことにもつながることは、欧州などでも多く見られる。このような高性能な町営住宅は全国的に見ても実施例はほとんどないと思われるが、成熟化する日本社会において一つの試金石とも言えるのではないだろうか。
※1 「国土交通省スマートウェルネス住宅等推進事業調査」にて中間発表が数年ごとに実施
※2 福井県「雪に強い家づくりの手引き」
https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/kenchikujyuutakuka/kokusetsujutaku_d/fil/kokusetsu02.pdf