《長野》誰もが外出したくなる公共空間づくりに向けて
AH! vol.85 - 2024/4《from 長野支所》
柳瀬 亮太/信州大学工学部建築学科 准教授
屋外活動の再評価
ゲーム機の進化、日常生活へのスマートフォンやタブレットの急速な浸透によって、現代人の生活は大きく変化してきています。特に2020年以降は、新型コロナウィルスの影響もあって今までになかった行動様式が当たり前になった側面もあります。そんな中、自然と触れ合う体験を通じて多様な学びが生じる屋外活動の重要性は、健康促進の観点からも世代を問わず見直されており、外出行動を促進する公共空間の整備が積極的に進められてきています。その1つとしてあげられるのが「公園」です。
国内の公園
日本では,公園は法律的に自然公園と都市公園とに大別されていますが、みなさんが身近に感じている「公園」とは後者かと思います。また、主な利用者をイメージする際に、パッと思い出されるのは、成人より未成年者、もしくは高齢者ではないでしょうか。辞書では「一定の区域を画して、自然景観を美しく快適に保全育成するとともに、公衆の野外レクリエーション利用に供するために設定される公共的な園地で、都市地域を中心に自然地域にわたって国や公共団体が設定管理するものである。」とされており、偏りない一般に向けた整備を前提としています。これまでは、目的や世代などに別個の対応が一般的であったと感じられますが、ここ最近は「インクルーシブ公園」という、性別や年代、障がいの有無などに関係なく同じように共に安心して利用できる公園が都市部を中心に急速に増えてきています。
インクルーシブ公園
インクルーシブ公園は、欧米諸国をはじめとする世界各地で整備・進化し続け、アジア地域にも導入されてきています(詳細については「https://www.minnanokoen.net/」などを参照)。中でも、台北市(台湾)における『共融式遊戯場』は日本の遊び環境づくりを考える上で大きなヒントとなると思われます。ここでは、3つの公園を紹介します。
1.立農共融遊戯場(立農公園)
台北市北部(MRT唭哩岸駅から約400m)にあります。台北駅からMRTで20分ほどの住宅地(下町のような雰囲気)に整備されており、写真2に見られるように「筋トレできる遊具」が他にない特徴してあげられます。幼い子ども連れの家族が遊ぶ傍らでトレーニングに勤しむ学生や高齢者、日陰のベンチで少し早めのランチをとる社会人が実に自然に共存する様は羨ましく感じられました。
2.舞蝶共融遊戯場(花博公園)
2010年に開催された台北花博会場に整備された公園です。歴史的な寺院である大龍峒保安宮の最寄駅(MRT圓山駅)から600mほどの距離にあるだけでなく、台北松山空港に着陸する直前の飛行機を間近に眺められる場所です。ブランコだけでも5種類(右は車椅子のスロープ付)を体験でき、休日には非常に多くの多様な人が思い思いに楽しんでいました。
3.建成公園共融式児童遊戯場(建成公園)
台北市の中心地(MRT中山駅から約150m)に位置しています。有名な夜市が近所にあり、夕食を終えた後に家族や友達、同僚と共に無邪気に遊具を楽しむ日常を目にできます。写真4と写真5は平日20時30分頃(時期は9月中旬)の様子ですが、不思議と自分自身も自然とブランコに興じたくなる雰囲気がありました。