《新潟》村上市における歴史的な町並み保全の取組み
AH! vol.85 - 2024/4《from 新潟支所》
野澤 大介/村上市 都市計画課 主査
□村上市の景観の特徴
新潟県の最北端に位置する村上市は、中世や近世には、村上城という城郭を中心に町並みが整備され、城下町として発展した地域である。村上には、国の名勝、笹川流れのような海岸景観や、集落の生業が生み出す田園景観など、貴重な景観資源が豊富にあるが、城下町における武家屋敷や町屋、寺院などが建ち並ぶ歴史的な町並みが今なお現存しているのも、村上市の景観の特徴の一つである。(写真1)
□村上市の歴史まちづくりの歩み
村上市の歴史まちづくりは、昭和61年から行われた国の指定重要文化財である武家住宅の若林邸の保存修理を契機に、旧武家町地区を対象に伝統的建造物郡保存対策調査が行われ機運が盛り上がったと言われており、その後、武家屋敷の移築・復元・管理等を行ってきた。
平成12年には、村上市歴史的景観保全条例が施行され、旧武家町地区における歴史的景観ガイドラインを定めた。また、助成金交付要綱を定め、外観修景などに対し助成を行ってきた。
このように、村上市の歴史まちづくりの取組みは、主に村上城跡と、その麓の旧武家町地区に重点が置かれていたが、次第に旧町人町・寺町地区の方でも、市民のまちづくり団体による活動が活発になってくる。
平成14年から始まった黒塀プロジェクトは、安善小路という通りにおける、既存のブロック塀を黒塀化して歴史的な町並みを創出する活動である。市民でお金を出し合い、制作も市民の手で行うというもので、国や県のホームページでも優良な景観形成事例として紹介されている。(写真2)
平成16年から始まった町屋再生プロジェクトは、同様に市民によるまちづくりとして町屋の外観や内装の再生経費に対して補助を行っている事業だが、その補助の基金には、プロジェクトの主旨に賛同した会員の会費が当てられている。現在では日本ユネスコ未来遺産にも登録され、今までに65件以上の町屋再生を手がけている。(写真3)
これらの民間プロジェクトは、様々なまちづくり賞や景観賞を受賞し、まち歩きイベント等と絡めて城下町村上を堪能してもらうことで、観光客の呼び込みに繋がっている。
こうした市民のまちづくり団体に後押しされたところもあり、平成23年、村上市は景観行政団体となった。その後、平成25年に景観計画が策定され、平成28年に歴史的風致維持向上計画が県内初の国の認定を受けたことにより、現在は国の支援のもと、より実効力の高い様々な事業が行えるようになった。
□町並み保全に向けた取組み
村上市景観計画では、景観形成基準を定め、景観誘導を図っている。また、旧武家町地区、旧町人町・寺町地区を含む市内計8地区を重点地区に指定しており、地区内の優良な景観形成行為等に対して、経費の一部を助成している。
また、歴史的風致維持向上計画における建造物外観修景事業では、重点地区の一部の通りを対象に、外観修景工事費の2/3を補助している。対象地である通りには都市計画道路の計画が残っていたが、地域住民の同意を得てそれを廃止する手続きをとった。現在、県道に接道するアーケード部分に対しては、無電柱化推進のため、県が用地買収を行っている。これらの事業により外観修景が加速化し、町並みも大きく変わった。この通りではこれまでに71件の外観修景に市が助成を行っている。(写真4、5)
□三位一体、協働のまちづくり
村上市の歴史的な町並み保全の取組みは、地元建築士会や建築組合などの事業者サイド、そして住民の方々の理解と協力なしでは到底成り立たない。定期的に市が開催する景観セミナーや町屋修景における防火対策セミナー等には多くの方々にご参加いただいている。歴史まちづくりは村上市としての重要な施策の一つではあるが、決して行政の独りよがりな施策ではなく、行政と事業者、そして住民一人一人が三位一体となって、協力しながら進めている施策である。