Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.84 - 2024/1《from 富山支所》
萩原 美咲/ 富山大学芸術文化学部芸術文化学科2年
籔谷 祐介/ 富山大学学術研究部芸術文化学系 講師

□住宅建築を通して富山に暮らすことを考える
 日本建築学会北陸支部富山支所では毎年、「とやまたてもの探偵団」と題して県内の建築や町並・地域文化を辿る見学会を行っている。2023年度の企画は、富山において自ら設計した自邸に住まう3名の若手建築家の自邸を巡り、その建築空間の体験と設計者による設計意図の解説を通して、地方や富山に暮らすことと住宅建築について考えるものである。10月7日(土)に開催した。参加者は、学生、実務者、大学教員など計12名であり、大阪、福井など県外からの参加者も見られた。今回、見学した住宅は、①Re-plot of townscape、②山川藪文庫、③花水木ノ庭の3プロジェクトであり、高岡駅に集合しバスで巡った。以下は、参加した学生によるレポートである。(籔谷祐介)

□若手建築家の自邸
 今回のとやまたてもの探偵団では、高岡市の住宅街、氷見市の田園地域の集落、富山市の花水木通りに建つ3つの若手建築家の自邸を見学し、それぞれの住宅ごとに設計者自ら解説をいただいた。
 色々な場所の住宅建築を見て周ることで、様々な住宅と周辺環境との関係やその場所での工夫を比較しながら学ぶことができた。

□Re-plot of townscape
 最初に訪れたのは、高岡市の住宅街に建つ「Re-plot of townscape」だ。設計は藤井和弥さんと横山天心さんで、構造デザインは大氏正嗣さんが手がけた。
 家が建つ敷地は細長く、縦方向にトオリドマとトオリニワと呼ばれる空き地が家を挟むように配置されており、家と外の空間との繋がりを強く感じた。内部は、縁側のような廊下になっており、開放的であった。家の中は、床や窓の高さが不均等になっており、多様な空間を生み出している点が興味深いと感じた。また、この窓や床の配置により、敷地の細長さや狭さを払拭していた(写真1)。窓をはじめとして、建物が空き地を向いて空間が設計されていることで、生活空間が街とも接続し、大きく広がっていく印象を受けた。


写真1 Re-plot of townscapeの内観


□山川籔文庫
 次に訪れたのは、氷見市ののどかな田園地域に建つ、籔谷祐介さん設計の自邸「山川籔文庫」だ。「山川籔文庫」は山川藪沢という四字熟語から名付けられたそうだ。
 古民家を改装した建築であるが、落ち着きと暖かみを感じる。改修前の間取りを意図的に残した窓は光の入り方が印象的で、リノベーションの利点を生かしていて面白いと感じた。コンポストトイレは興味深く、持続可能な社会形成が話題となる中で、勉強になるとも感じた。1階は、共有資源になっている本棚や、イベント等に活用できる半屋外の土間空間があり、地域住民などと交流ができるようになっている(写真2)。地域に新たな交流の形を生み出す建築となっており、今後の活用に期待が膨らむ。
 この後、氷見市の古民家カフェ「café 風楽里」で昼食をいただき、次に訪れる自邸がある富山市へと向かった。


写真2 山川籔文庫の半屋外の土間空間


□花水木ノ庭
 最後に訪れたのは、dot studio設計の「花水木ノ庭」だ。「花水木ノ庭」は、富山市花水木通りにあり、市内電車の上本町電停から徒歩でもアクセスできる。四住戸の長屋と雑貨屋、シェアスペースが一体となった建築であった。解説していただいたのは、設計者の沼俊之さんで、4住戸のうち1戸は沼さんの自邸である。
 沼さんによると、富山市中心市街地からほど近い花水木通りは、個性的な店が多く立ち並び賑わいがある。しかしながら、店での滞在時間が短い傾向にある中でこの建築は、人々が溜まるような場所となるような工夫が施されていた。そして、道路から建物に引き込まれるように延びる車路は、駐車場とシェアスペースにつながる広場を兼ねており、住民の談笑といった交流する場や、イベントスペースとして活用されているそうだ(写真3)。
 長屋は、各住戸にテラスがついており天井や開口部が高く開放感がありながらも、天井や壁、床などのレベルの差により隣人や外からの視線は遮断されており、プライバシーが守られ落ち着きのある生活空間を感じられた(写真4)。


写真3 花水木ノ庭のシェアスペース


写真4 花水木ノ庭の住宅部の内観


 建築家の自邸を3つも見学できたことは大変貴重な経験になり、大変有意義な見学会でした。特に街との繋がり方は、共通した特徴でありながら、多様なアプローチの手法を学ぶことができました。
 最後に、自邸の見学や解説をしていただいた方々やそのご家族、その他全ての関係者の方々に、御礼申し上げます。(萩原美咲)