Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.82 - 2023/7《from 新潟支所》

坂下 肇/佐渡市観光振興部世界遺産推進課文化財室文化財保護係

□調査の経緯と目的
 佐渡市小木町は佐渡島の最南端に位置した港町です。小木港は、江戸時代の初めに金銀の積み出し港として整備をされ、西廻り航路の開設後はその寄港地として栄え、国内各地から数多くの物資や人びとの往来をみました。
 こうした海運業を支えた小木町は、当時における佐渡第一の港町として栄えました。城山と呼ばれる小半島を中心に、西の「内の澗」、東の「外の澗」という二つの入り江が形成され、これらに沿って湾曲する陸繋砂州上の街路に面した間口2~4間ほどの短冊状敷地の上に町屋が建ち並んでいます。


写真1 小木町の町並み


 これらに着目した新潟大学が、平成19年に小木町の町屋を対象として調査を行い、古い敷地割や町家が良好に残っていることがわかりました。これを受け、地域住民の町並み保存や活用に対する関心が高まり、まち歩きやまちづくりの団体が設立され、平成30年には小木町商工会内に「おぎ町並み保存推進委員会」が発足しました。
 地域住民が主体となって勉強会や歴史的な建物を活用したイベントを開催する等、町並みの保存と活用に向けた活発な活動が行われるようになりました。佐渡市でもこうした活動を受けて、小木町の文化的価値の把握を目的に令和3~4年度の2ヶ年にわたり、保存対策調査を実施することになりました。

□調査の内容
 今回の調査は、調査および成果報告書作成を内容とする調査研究事業として、独立行政法人奈良文化財研究所に委託して実施しました。
 調査は旧市町村行政区における「小木町大字小木町」を対象とし、入り江に面して展開する町場部分、および山手の谷筋と寺社地を範囲として、戦後の埋立地が明らかな現在の海岸周辺区域は対象外としました。


図1 調査範囲


 令和3年度は、4回の現地調査を実施し、第1回は悉皆調査、第2~4回は個別の建造物調査を行いました。令和4年度は4回の現地調査を実施し、第1~2回は個別の建造物調査、第3回は祭礼調査、第4回は類例調査を行いました。


写真2 調査の様子


 令和5年3月に「佐渡市小木町伝統的建造物群保存対策調査報告書」を刊行し、3月21日(火・祝)には調査成果報告会を開催しています。報告会には約100名の方が参加され、保存対策調査を実施した奈良文化財研究所から、保存対策調査によってあきらかになった小木町の町並みや建物の特徴について報告していただきました。


写真3 報告会の様子


□小木町の価値づけと今後の取組み
 調査によって、小木町は江戸時代からの地割りをよく残し、その地割が随所に復元可能であることがあきらかになりました。また、明治37年の大火によって多くの町屋が被災したものの、それ以前の形式を踏襲して再建された特徴ある伝統的町屋が数多く残り、文化財として高い価値を有していることがわかりました。
 佐渡市では今後、小木町の伝統的建造物群の価値を保存活用するための計画について、地域住民や審議会の意見を聴きながら策定を進め、保存地区や周辺も含めた地域のまちづくりの取組みを進めたいと考えています。