Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.81 - 2023/4《from 富山支所》
大丸 英博/ 職藝学院 教授

□「実物教材」による実践実習と地域貢献
 「職藝学院」(大工と庭師を育成する専門学校)では、平成8(1996)年の開学以来、実習中心の教育プログラムを実施している。建築コース(建築大工)の基礎実習では木工道具の扱いや木工技能(継手・仕口等)の基本を、応用実習では「実物教材」(実際の建具・家具を含む建物づくりや庭づくり)を用いて実践的に学んでいる。
 一般から提供される実際のプロジェクトを「実物教材」として位置づけ、教育効果や地域貢献等を考慮し、現役のプロの職人(マイスター)指導のもと、学生の手による施工・製作を行っている。学生達は、実際の現場での緊張感の中で様々な「実物教材」に取り組みながら、多様な技術を学んでいる。これまで、木造の新築・解体・再生、文化財の保存修復、用途は住宅・古民家、ギャラリー、多目的ホール、厚生施設、神社・寺院、茶室・門・塀、土蔵、収蔵庫、車庫、物置等の「実物教材」を建築してきた。現在、教材(建築)の数は累計で180件を超え、県下全域に展開している。
 無垢の地場産材を金物に頼らずに木組みで組む、木造建築の解体や再生・修復等を通じて先人の知恵や技を学ぶ、また、古材の再利用などを通じて地球資源の大切さや環境問題などを五感で学ぶなど、これらの取り組みは学生たちの励みになると同時に地域貢献へと連なっている。
 今回は、その中での最近の大工実践教育(実物教材)の取り組みについて紹介したい。

□富山市指定文化財「竹島家 住宅主屋」保存修理
 「竹島家住宅」は、富山市中心市街地の北部、JR富山駅より北へ約2Kmに位置し、元和4(1618)年から明治の廃藩置県まで十代にわたって富山藩の十村役を務めた旧家である。
 本学院では、継続的に「竹島家」に関わらせていただき、これまで「主屋」の一部、「長屋門」、「中塀」、「御成門」などの修復を行ってきた。
 主屋の主要部は、明治29年頃の建築で、大正から昭和頃に座敷部分、昭和17年に二階部分の増改築が行われている。建物は「居室棟」(間口12.7m、奥行21.8m、一部二階建て)と「座敷棟」(間口12.1m、奥行13.2m、平屋建て)が前後にややずれる形で建ち、共に切妻造り、桟瓦葺きの屋根となっている。2022(令和4)年度は「座敷棟」を中心に保存修理を行った。
 破損状況の調査により、経年による基礎、足元廻りの不同沈下による床板の不陸、後補による新建材(床等)の使用、内壁(漆喰壁等)の亀裂、剥落、当初、巾広の竪板張りであった外壁の後補の改変、腐朽等による垂木屋根面の不陸などが見られた。実習では、床組みの解体・補修取替え、縁側部柱の部分的揚屋を、屋根工事では、地元瓦職人との協働により、学生は屋根下地の解体、雨漏り・蟻害による腐朽した小屋梁の取り外し・新材加工・取替え、母屋の高さ調整、野地板の新調、軒先補強垂木の新設などを、職人は屋根瓦の葺き直しなどを行った。また、屋根工事に続き、学生達は外壁妻面壁板の復原新調を行った。


写真1 白蟻被害に伴う床組み取替え材(大引・根太・床束等)の新材加工


写真2 床組補修取替え・組立て


写真3 白蟻被害に伴う小屋梁新材仕合せ加工取付け


写真4 座敷棟 妻面壁板復原新調張付け


□富山市指定文化財「竹島家 住宅 道具蔵」修繕
 道具蔵は、江戸時代中後期の建立とされ、桁行5.33m、梁間6.06m、2階建て土蔵造り置き屋根の切妻造り、桟瓦葺きで正面に下屋を設けている。修繕は2020(令和2)年度から2021(令和3)年度にかけて行った。
破損状況の調査により、布基礎は経年による不同沈下が生じ、背面側に向かって全体に沈下。軸部は、蟻害、湿気等による腐朽、柱の傾斜などが見られた。実習では、1階床組み等の解体、土台の補修・取替えのためH形鋼を井桁状に組み、ジャッキアップ(部分的揚屋)を行った。また軸部等では地棟、大垂木、軒桁、柱、土台、大引、根太の蟻害等による部分の取替え、繕いを行った。新材(桧材)は、材種、寸法、仕様等は現物にならい、組立て、古材は保存上支障のない限り極力再用し、腐朽している部材は繕いを行っている。


写真5 完成した「竹島家住宅 道具蔵」


写真6 土台の補修・取替えのためのH形鋼による揚屋(ジャッキアップ)


写真7 腐朽した軒桁や大垂木の修繕


□伝統の技と文化を次世代で担う人材育成とふるさと景観の形成伝承
 「実物教材」は、実際に存在する伝統木造建築であり、実習を通して学生の実践力を養成するとともに完成した建築物は富山の重要な景観となっている。地域で活躍する職人とともに修復、復元、維持管理などを実施することで、世代を越えた技術の伝承が可能となるばかりでなく、完成した建築物は地域の財産として甦る。
こうした次世代職人の育成、地域の職人との協働、ふるさと富山の景観形成の三位一体の活動を今後とも大切にしていきたい。

<関連URL>
大工と庭師の専門学校 「職藝学院」  https://www.shokugei.ac.jp