《新潟》「まちにひらく」を手探りで
AH! vol.81 - 2023/4《from 新潟支所》
佐藤 謙太郎/新潟県教育庁財務課 主任(しばたまち守の会)
□長屋の佇まいと「しばたまち守の会」の活動
新発田市御幸町1丁目に、白勢長屋と呼ばれ、明治20年頃の建造とされる建物がある【写真1】。初めてこの建物の前面道路を散策した際、往年の偲ばせる堂々とした佇まいに惹かれたことが、私の活動のきっかけになっている。平成29年、私は当時勤務していた新発田地域振興局にて新発田市内のまちあるきイベントを企画・運営した際、参加者の知人が所有していたこの長屋の一棟(当時は住宅の物置となっていた)、I邸を内覧させていただく機会に恵まれ、この場所を再び地域に開いていくことはできないか、と考えるようになった。以降、空き家を活用する取組を実践する専門家などを招きながら勉強会を重ね、地域の人との接点を設けるため長屋の『まちびらき』【写真2】を不定期に開催しながら有志を募り、任意団体である『しばたまち守の会』を設立した。会の目的はこの長屋をはじめとした市内の歴史的建造物を保存しつつ、まちの未来のために実際に活用していくことであり、私の他、市職員や建築士、瓦屋、デザイナー等がメンバーである。
□手作業での内装の解体。新型コロナウイルスまん延の中での活動縮小を経て
当時物置となっていたI邸には、大量の家財道具が放置されたままになっていた。加えて基礎部の腐食が進んでいたことから畳の上の歩行がままならない箇所が幾つも生じていた。そこでまずはI邸の掃除イベントを複数回に渡って開催した【写真3】。また、同イベントの中で歴史的建造物の専門家から話を聞く機会を設け、屋内での活動スペースを少しずつ広げながら活用方法についての検討を進めていった。長屋の前面道路は新発田祭りの際に、歴史ある台輪の行列が練り歩くルートになっている。オーナーの思い入れもあったことから2階の桟敷席から台輪を眺めることができる、イベントスペース兼・コワーキングスペースとしての改修を目指すことになった。
主に土日を中心に室内の掃除を進め、ある程度作業が進んでからは建築士の助言の下、今度は手作業で内壁や基礎、天井、2階床などの解体を少しずつ進めていった【写真4】。
その後は新型コロナウイルスの感染拡大を受け活動しにくい時期が長く続いたが、作業人数に上限を設けた上で、流動的に人員を引き入れながら地道な作業を続けた。この頃は大学が休校となり地元に戻っているという大学生なども作業に参加してくれた。午前9時に集合しその日の目標を立て作業を始め、昼時には食事を取りながらメンバーと交流【写真5】。その後は片付けと同時に次回の作業予定の共有を図る。そんな緩やかなスケジュールの下で活動は続き、令和3~4年で計24回、延べ160人以上の人の手を借りながら、ほぼすべての屋内の躯体が表しの状態となった。
□当面の目標と作業状況
昨年の後半からは室内四周の置き基礎が崩れぬようモルタルで仮補強しつつ、土間の打設に必要な深さまでメンバーで土を掘り続けた【写真6】。二度重機を入れた時こそあれ、これもほぼ全てメンバーによる手作業である。今後は新たに敷設する埋設配管等の位置を決めながら砕石敷きや配筋・土間コンクリートの打設を行い、最低限の内装を設えた上で、地域に開いたコワーキングスペース兼イベント会場、私達の事務所として令和5年8月頃の使用開始を目指している。今年は参加者が大工や職人の指導の下で施工現場を体験できるワークショップなども交え、地域と共に作業を進めていく予定である。
□手探りの過程を資源として活かす
実際の長屋は現在作業を進めているI邸を含め七棟が軒を連ねており、空き家に近しい状態のまま使われていない棟は他にも存在している。私達はI邸を自分たちの活動の拠点、コワーキングスペースとして活用することを目指すが、将来的には長屋全体がまちの拠点として残り続け、また新たな用途や役目を担って開かれることを夢見ている【イラスト1】。
ここまでたどり着くまで丸5年以上を要している『しばたまち守の会』の活動は、理論と実践を両輪で試みる活動として始まり、現在の中心メンバーである建築士の加入により、作業が一気に加速するきっかけとなった。行きつく先は分からないが、まず一つ拠り所を形にすることで、ここまで取り組んできた空き家の再生手法自体を、同じ目的に挑戦しようとする多くの人々と共有する資源にしたいと考えている。この原稿を書いている今は、I邸の工事完成後の運営に向けて事業計画を構築し、併せて団体の法人化の準備を進めている。
取組について普段から助言を受ける建築士の方からは、失敗さえしなければ転んだ先こそが成功である、といつも励ましをいただいている。今後も新しいコミュニティの在り方を手探りで模索し、日々地域とメンバーと共に成長しながら作業を進めていきたい。