《富山》SCOP TOYAMAについて
AH! vol.80 - 2023/1《from 富山支所》
仲 俊治/株式会社仲建築設計スタジオ 代表取締役
□職住融合の生活環境
2022年10月にSCOP TOYAMA(富山県創業支援センター/創業・移住促進住宅)がオープンした(写真1)。創業や移住をする人たちの受け皿施設である。職住融合の生活環境が先駆的であるだけでなく、高校生の発案で事業化された経緯も特徴的であるため、ここに紹介したい。
建築甲子園というイベントがある。全国の建築学科に通う高校生を対象にしたアイデアコンテストである。2017年の建築甲子園で、富山工業高校生4人による提案「わかもん団地」が優勝した。監督は藤井和弥先生である。この提案は、富山市北部にある旧県職員住宅をリノベーションして、シェアハウスやシェアオフィスにするものだった。この案を事業化することになり、2019年に設計者選定プロポーザルにおいて、我々が設計者として選定された。
□団地構造のセミラティス化
我々は隣接する階段室型共同住宅の3棟を選び、中央をオフィス・ショップ棟として、住居棟2棟で挟み込む構成を提案した。
階段室型の住棟といえば、究極の縦割り建築である。住戸は相互に何の関係も持たずに孤立した空間であるし、並行配置された住棟も孤立している。創業や移住に挑戦する人びとが触発し合うような環境をつくるにあたって、築50年という古さもさることながら、既存建物の構成原理そのものが問題に思えた。
そこで、この縦割り構造を「縦糸」とみなし、内部に横断的な空間を挿入したり、増築で付け加えたりした。特に階段室同士を接続する空間を「横糸」と名づけ、経路や居場所の選択肢を増やす要素として積極的に導入した。縦糸に横糸を編み込むことで団地の空間をセミラティス化し、有機的な関係を結べる環境をつくろうと考えたわけである(図1)。(このあたり、いまはなき同潤会江戸川アパートメントを思い起こす方がいらっしゃるかも知れない。)
具体的な「横糸空間」を紹介すると、まず内部においては、界壁を開口してつくりだしたシェアオフィス(写真2)、シェアハウス、シェアキッチンなどのオープンな空間である。外部においては屋根付きの外廊下であるコモン・アーケード(写真3)や、その上部のテラスである。住棟どうしは渡り廊下で接続し、3棟を一体化した。
□実装するプロダクトを高校生とのワークショップで製作
エリアの中心にカフェがある(写真4)。このインテリアを高校生とのワークショップでつくった。3年に渡ったワークショップでは、家具、照明といったプロダクトや、壁面のグラフィックなどをデザインして製作した。富山工業高校の学生や教員の熱意が素晴らしいプロダクトを生み出したことは感動的であった。特徴的な素材を用いることをテーマとしたが、絹や和紙の生産者のところに足を運び、自分たちの暮らす地域を再認識する機会にもなった。
□「何をつくるかから考える」
SCOP TOYAMAでは、高校生の発案を下敷きにしながらも、われわれは具体的なプログラムを組み立て、また、物理的に組み込めるかの検討を繰り返した(時にはソフトのデザインも行った)。何をつくるかを一から考えたわけであるが、これは、社会が大きく動き、従来のビルディングタイプを超えた建築が求められているからではないだろうか。前例のないことに県庁職員も含めて取り組み、無事にオープンを迎えられたことに胸を撫で下ろしている。
話はすこし変わるが、長野県において県立学校の建て替えに伴う基本計画の設計者選定プロポーザルが立て続けにあった(NSDプロジェクト)。その一つである松本養護学校のプロポーザルにおいて、われわれを含む設計JVが選定された(SALHAUS・仲建築設計スタジオ共同企業体)。諸条件を整理し、いろいろな案をつくっては利用者や地域住民とも対話を重ね、基本計画をまとめていく。その後、設計作業につながっていくのであるが、これは「何をつくるかを考える」という段階から建築家が参加することへの期待のあらわれではないだろうか。
建築は地域社会の未来に貢献できる。そのためには、計画段階から建築家が関わることについて、その意義が社会に認知されるよう、これからも努力していきたい。