《新潟》燕市吉田地区の空き家再生の取り組み
AH! vol.80 - 2023/1《from 新潟支所》
相馬 建/燕市役所都市整備部都市計画課 主任
□まちの入り口となった再生した空き店舗
「Toko Toko」は、地元商店街の活性化を目的に、「まちとひとを繋げる場所」をコンセプトとした店舗であり、コーヒーや雑貨の販売に加え、この地域での起業や開店を検討する人の相談窓口として機能している。前面道路を車両通行止めにして開催される定期市(朝市)の際には、有志を募ったマルシェを開催し、1,000人規模の集客だけでなく、賑わいづくりに貢献したいと考えるクラフトショップやデザイナーといった多業種の人材にまちへの参画の機会を与えることで、「Toko Toko」周辺の空き店舗をリノベーションして開店する動きに繋がるなど、地域活性化の中心ともいえる存在になりつつある。
~開店にいたるまで~
□地域活性化のきっかけづくりを目指した事業
平成27年当時、吉田の商店街はJR吉田駅から徒歩3分の立地にありながら、日本中で起きている空き店舗や店舗解体後の空き地によるスポンジ化が進行しており、路線価が9年で3割減少するなど、最盛期からの衰退が目に見える状態であった。市は対策を講じるため、県内外で地域活性化に寄与する活動と研究実績を持つ新潟大学の松井研究室に協力を持ち掛け、「まちなか資源再発掘事業」を立ち上げた。事業フローとしては、「1.まちあるきによる調査」、「2.地域資源を活用した実験案の策定」、「3.実施」、「4.振り返り」を繰り返すこととした。一般的な業務フローに用いられるPDCAに準じた形で、すべての工程を、既存店舗や地元自治会に加え活性化を志しプロジェクトに参加する者と、大学の研究室、市役所が協働で実施するルールとし、それぞれの得意分野を各自が当事者意識を持ちながら、この仕組みを繰り返すことにより地域の人材と活用可能な資源を同時に集めることを目的とした。打ち合わせは多い時には2.3日おきに行い、関係者の増加による意見の取捨選択や、資料作成に要する時間とまちに足を運ぶ回数は他の事業と比較して数倍となったが、地域課題の解決に的確で、かつ詳細な情報を集めることができた。
□事業実施による結果
まちあるきから、実験の対象となる地域資源を洗い出し、朝市の空きスペース、空き店舗の短期間利用、既存店舗の余白スペースの活用と次々に実験を試みた。平日、休日に関わらず利用者数が変わらない朝市に変化をもたらすため、出店者のいない区画へテーブルや椅子の設置によるコミュニティスペースを作る実験をしたところ、歩行者が滞在するきっかけになり賑わいに繋がったほか、同じく空き区画へキッチンカーを誘致した際には歩行者が3倍となり、通常時2-3名しか確認できなかった子どもが約200名訪れる結果を示せた。大規模な駐車場とイベントを実施する費用がないことが一番の課題として挙げられていた商店街では、現状のまちの状態と少ない予算でも「まず出来ることがある」いった機運が高まり、「自身が所有する空き店舗を使ってほしい」と話しだした空き店舗の所有者と「ここに拠点を構えてみたい」と話す店主の出会いに結びつく最高の結果を得た。
□結果から見えた考察
デスクでなく、まちを舞台にすることにこだわって展開した事業により、地域活性化の中心となり得る拠点のきっかけとなった。想定よりも形になるまでの期間がとても短いことは幸運であったが、その期間が長期に渡ろうとも、当事者として考え、行動するまちの関係者には、前向きな変化が起こるまで継続する勢いを感じたし、その姿勢が人を惹きつけたものと考えている。研究室から示される他地域の事例は、現実的な実験案の策定になくてはならないものであったし、人手が必要な際には足しげく通ってくれたことでスピーディーな実施に漕ぎ着けた。すべての打ち合わせをまちなかで開催することで口伝に参加者や関係者、地域の情報が増えた。市役所は多少なりとも新しいプロジェクトに対する不安感を拭えたものと考えている。
それぞれが得意分野を活かし、惜しまず足を使い、誰かの大きな力に期待せず、力を持ち寄って作り上げるまちづくりは、どうしたら結果につながるか考えて動き、継続することが重要である。労力は係るが、確実にまちに根付く強い力になるものと考え、今後も支援となるよう継続していきたい。
Toko Toko:https://www.h-d-f-171001.com/tokotoko/
まちなか資源再発掘事業:https://www.city.tsubame.niigata.jp/soshiki/toshi_seibi/3/1/3216.html
新潟大学松井研究室:https://matsui2014.wixsite.com/urbandesignlab