Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.78 - 2022/7《from 富山支所》
横山 天心/富山大学芸術文化学系 准教授

1.はじめに 「金屋町楽市inさまのこ」から「ミラレ金屋町」へ
 高岡鋳物発祥の地・金屋町で2008年に始めた「金屋町楽市inさまのこ(以下楽市)」は、2017年度で10回目となりました。10年の節目を契機に、ゾーンミュージアムとしての工芸品の展示だけでなく、これまで金屋町楽市を陰で支えてくださった金屋町の住民が主体(パフォーマー)となり、金屋町の魅力を来訪者に見て、知って、体験してもらうイベントにシフトすることになりました。イベント名称も住民とのワークショップで話し合い、「~してみてください」という意味の地元の方言「ミラレ」を名称の冠としました。
 来訪者に単純に伝統的な建物を“見る”だけではなく、実際に金屋町の通りを巡り、住民と会話し、その文化に触れ合うことで、町家に暮らす人々のリアルな生活を体感してもらうために、新たに「まちづくりプレゼ」「おもてなしガイドツアー」「金屋町交流スペース」を企画しました。「まちづくりプレゼ」においては、「町家ビフォーアフター」で石畳通りを中心に文化庁の修理・修繕事業により復元された町屋の外観を紹介し、「オープン空家」では空家を学生達で整理整頓し、お香や音楽で気持ちよく町家の隅々まで内覧できるようにしました。「おもてなしガイドツアー」においては、「空き家ツアー」で元気プロジェクトのメンバーが解説しながらオープン空家を巡り、「藤さんぽ」で藤グループメンバーが金屋の魅力を余すところなく紹介し、「ミナイト金屋町」でライトアップされた石畳通りを巡り、夜の金屋の魅力をアピールしました。


写真1 空き家ツアー


写真2 ミナイト金屋町


石畳通り各所に設けた「金屋町交流スペース」には、住民と学生がお茶とお菓子で来場者をもてなし、自然とコミュニケーションが取れるようにしました。


写真3 金屋町交流スペース

 また作品展示においては、金屋町楽市では工芸品が主役で町屋は背景として扱われてきましたが、ミラレ金屋町では工芸品が町屋のアクセントとして扱われ、来訪者により建物の魅力や暮らしを体感してもらえるようにしました。さらにワークショップも数を倍増し、いろいろなところで工芸品の制作体験ができるようにしました。


写真4 町屋展示 金森藤平家


写真5 町屋展示 般若家


 また、楽市の人気企画であった着物ファッションショーは「MIRAREこれくしょん」として継続し、夏休み期間中に十分な時間をかけて練習を行いました。金屋町住民で日本舞踊師範の政地真実氏から基本的な所作や振り付けの指導を受け、本番では観客から拍手がおこる程の出来映えとなりました。新企画の「職人これくしょん」ではカロエ高岡の職人さんが仕事道具と共にウォーキングし、伝統産業を支える職人の魅力をアピールしました。


写真6 MIRAREこれくしょん


2. コロナ禍による「ミラレ金屋町」イベント開催中止と再開に向けた取り組み
 残念ながら、2020年、2021年はコロナ禍のため、「ミラレ金屋町」のイベント開催が見送られました。その間、活動を中止するのではなく、これまでの試みを振り返りながら、金屋町の魅力をリサーチし、再定義し、それらを編集することで、金屋町のソフト面のリノベーションを行ないました。具体的には以下の3グループに分かれて作業しました。今回得られた成果を本年開催予定(2022年9月23日、24日)のミラレ金屋町の魅力的なコンテンツとなるよう調整しています。


2-1.作家アーカイブ班
 町屋での工芸作品展示にかわる取り組みとして、これまでの楽市・ミラレ金屋町に出品された「実行委員会推薦作家」と作品について、2017~2019年度の3年間を対象として紹介することにしました。参加したのは、楽市やミラレ金屋町を体験したことがない1年生3名だったため、まずは過去資料の調査や金屋町の見学を行うことから始めました。その後、金工、漆工、木工に担当を分け約20名の作家についてまとめました。各作家の来歴や作品の形状・技法の特色などの調書、楽市出品作品については解説も作成しました。最終プレゼンテーションの際には、それらの情報を町屋展示での各作品の写真(武山良三教授撮影)とともに紹介しまた。今後一般公開も進める予定です。


写真7 アーカイブの作成過程のレポート


2-2.動画班
 学生たちの視点から金屋町を分析し、その魅力を効果的に動画にまとめ、You TubeやSNSで発信することで、コロナで旅行を控えている人々にアピールすることを目的としました。
<町巡りグループ>
若者が好みそうな金屋のお店を、若者の視点で取材しその魅力を紹介したり、実際にそのお店を体験して楽しんでいる様を撮影して動画にまとめました。普段の伝統文化が根付いた落ち着いた雰囲気の金屋町をオシャレに楽しむ若者たちの生き生きとした振る舞いが、若い来訪者を呼び込むことを期待しています。
<移住グループ>
金屋町にある芸文生専用のシェアハウス「金屋ハウス」に住む学生が町を巡りながら自分のお気に入りの場所を紹介したり、金屋町に移住してきた小泉さんにインタビューし、お宅を訪問した様子をまとめました。日常生活の中で感じる金屋の魅力を発信することで、移住を検討している人々に役立つ情報を発信しました。
<企画グループ>
金屋町を舞台に、人々を惹きつける面白い動画を企画しました。金屋町楽市時代から作品を出店されているガラス作家の市川さんをさまのこハウスに招待し、学生たちが金屋町の住人と協力して調理した料理を、作家の器に盛りつけ、皆で食事を楽しむ様子を動画にまとめました。金屋町に興味のない人にも、動画を視聴してもらえることから、新たな金屋町ファンを生み出すことができればと思います。
撮影協力:Latticework brewing、Ryugi、金の三寸、大寺幸八郎商店、和輝、Switch sweets cafe、ゆずら、パティスリー プチ・フール、小泉昇、市川知也、藤田とよ


写真8 企画グループの動画の1シーン


2-3. 空家パンフレット班
 金屋町への移住希望者の移住促進を目的に、空き家を活用してどのような暮らしを実現できるかを伝えるためのパンフレット「mousou 金屋町空き家移住計画」を学生主体で企画・制作しました。このパンフレットは、①空き家の立面図(表紙)、②平面図と写真を用いた空き家の現状紹介、③空き家に居住する家族を想定し、どう暮らすかを妄想した「妄想図」、④金屋町に居住する方がどのように暮らしているのかを紹介する「ご近所さんにきいてみた」から構成されており、今年度は2軒分制作しました。制作にあたっては、空き家の実測、居住者へのインタビューを実施しました。学生目線で金屋町の町家の魅力やその魅力を生かしたライフスタイルが表現されたこのパンフレットは、金屋町住民からも高い評価を得ており、今後の展開が期待されています。
制作協力:大寺康太


写真9 空き家での暮らしを妄想した「妄想図」