《石川》新石川県立図書館の設計 ― 知の殿堂 ―
AH! vol.78 - 2022/7《from 石川支所》
仙田 満/株式会社環境デザイン研究所会長、環境建築家
新石川県立図書館は金沢市小立野の旧金沢大学工学部跡地に建てられた。敷地中央に県道から直交するアプローチ道路が計画され、南側には市立美術工芸大学が建設中である。新図書館のプロポーザルコンペは2017年に行われ、応募24チームの中から幸運にも最優秀者に選ばれた。
私たちの案は敷地中央に建物を配置し、その周辺に駐車場を配するものであった。近隣は住宅街であるので、建物をできるだけ住宅から遠ざけるようにした。プロポーザル時の提案は2つのグレートホールをもつ地下1階地上3階建の構成だったが、最終的には1つのグレートホールをもつ地下1階地上4階建の構成で、4層目に円環状のブックギャラリーをもつ形に変更した(写真1)。
県の基本構想では、従来の図書館機能だけでなく、コミュニティ機能をもち、貸出中心ではなく課題解決型、すなわち探究型の図書館、かつ地域コミュニティ、地域文化、伝統文化とも連動した新しい型の図書館が目指された。
私たちは基本構想に示された図書館像に加え、公園のような、目的がなくても何気なくあそびに来られる図書館、うれしい時には心をときめかせ、悲しい時には心を整理できるような図書館を提案した。それは2008年に秋田で完成した国際教養大学中嶋記念図書館の発展形といえる。国際教養大学中嶋記念図書館に比べ、延床面積は約5.5倍、図書収蔵能力は約15倍である。多様な人々が使いやすい図書館を目指し、1階から3階までスロープで移動可能にした。グレートホールという中心的な空間は、天井高約18m、長径約56m、短径約48mの長円状である。天井は前田家の成巽閣の天井を引用し、青色とした。全体の色彩はベンガラ色を基調としつつ、加賀五彩という石川県の伝統色を用いている(写真2)。
グレートホールにおいては、1階から3階、そして4階の空中回廊まで、スロープや階段、EV、ESCによる多様な動線が錯綜することに加え、スロープなどの動線に沿った書架、閲覧机、ラウンジソファ等が多様に配されているため、全体にグレートホールを中心とした巡りの楽しさが実現できたのではないかと考えている(写真3)。
外壁は大判ガラスと乾式タイルを装着したコンクリートパネルを交互に雁行させて配置し、リーズナブルでありながら閉鎖的でなく、適度な開放性をもちながら、品のある構成が目指された。本の頁を開く時の期待感をイメージしたエレベーション、直射光を適切に排除する立面構成を意図している。中央のエントランスから入ると、屋内広場が出迎え、そこから図書館のグレートホールにアプローチする。こどもエリアは外部空間をもち、さまざまなあそびの要素があり、幼児から中学生まで楽しめる構成となっている。幼稚園、保育園、こども園の園外保育、小学校の課外学習の場としても十分に機能すると思われる(写真4)。
こどもから高齢者、県民、県外から訪れる人すべてにとっての「知の殿堂」となることを意図している。本が好きになり、考えることが好きになり、知的活動に多くの人が刺激され、学びと新たな研究や企業活動が活性化され、新たな石川県金沢の町づくりに寄与されることが期待される。