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AH! vol.61 - 2018/01/09《from 石川支所》

山岸邦彰/金沢工業大学環境・建築学部 教授

「あっ、ホテルみたい。」と、内覧会の送迎バスで隣に乗り合わせた6歳くらいの男の子が言いました。車窓から見えたこの建物は、ホテルではなく新しい石川県立中央病院です(写真1)。2017年9月に竣工し、その内覧会が11月26日に行われました。オープンは2018年1月9日。総工費約350億円の県内最大級のビッグ・プロジェクトは、間もなく1月初頭に開院します。今回は、オープン前の新石川県立中央病院を紹介します。


写真1 石川県立中央病院全景

JR金沢駅から北西に伸びる通称「50m道路」を2.5kmほど進むと、石川県庁とはす向かいに石川県立中央病院があります。本病院は県内最大級の大きな病院ですが、施設の老朽化と増築を重ねた使い勝手の不便さから、7年前に改築を決定、そして今日に至っています。
それでは、さっそく中に入ってみましょう。
まず紹介したいのが、「石川らしさ」を前面に押し出した「サイン」です(写真2)。病院の機能を5種類に分け、それらを、臙脂(えんじ)、藍(あい)、黄土、草、古代紫(こだいむらさき)の「加賀五彩」で彩っています。また、各階を統一した「加賀小紋」の文様で表したり、病室に至るエレベーターのホールにはおもむきの異なる伝統工芸のオブジェを壁内に納めたりして、各階の特徴を表現しています。ホールは全面に能登ヒバでできた「縦格子」があしらわれ(写真3)、床面は川面をイメージした石張りとなっています。エントランス・ホールを進むとシースルーのエレベーターが登場しますが、県内企業が開発した「世界一軽く薄い繊維」を模様にしたガラス壁で囲われています。その右隣には、九谷焼の英知を結集して製作された陶板壁「華ものがたり」が出迎えてくれます。


写真2 「加賀小紋」をあしらった案内表示板

写真3 縦格子を基調としたエントランス

これだけ聞くと、公共事業なのになんと贅沢な、とのご批判を受けかねませんが、患者のことを考えた病院としての新しい試みがなされています。一つは女性専用外来。小児科外来と隣接されており、プライバシーに配慮された外来が設計されています。もう一つは総合母子医療センター。通常の産科の他に、新生児集中治療室(NICU)や新生児治療回復室(GCU)、母体や胎児の危機を救うための母胎・胎児集中治療室(MFICU)を手術室と小児病棟と同一フロアに隣接させ、産科医師と小児科医師が連携しやすい環境整備が整っています。最後はツイン・クロス。一般病棟を、十字を左右に並べたような平面計画とし、十字の「辻」部にスタッフステーションを配置。各病室までのアクセスを至近にしています(写真4)。


写真4 ツイン・クロスのスタッフステーション

このように石川らしさと機能性を高めた石川県立中央病院。この地は以前には田んぼが広がっていた平地で、比較的軟弱な地盤上にあります。今では病院の常識となった地震に強い「免震構造」を採用しているのですが、免震を有効に効かせるためには地盤を改良する必要があります。通称、「砂杭」と呼ばれるサンドコンパクションパイル工法を建物全体に施工しています。図面を見て建物直下の砂杭をざっと数えると、なんと約2,500本!地盤改良工事にどれだけの時間がかかったかと思うと気が遠くなります。
一昔前に比べると病院はとても綺麗で進化しています。できることならばお世話になりたくない病院に「行きたい」という感情は滑稽でしょうが、病気になったときに「行きたくなる病院」は増えるべきでしょう。薄黄色を基調とした内装、吹き抜けのあるオープンなスペース(写真5)、LED照明による明るい院内、自分の部屋より上等な病室、石川らしさを取り入れたサイン、そして高度医療機器の導入。何かあったときに、ここに来たい、と思うのは私だけでしょうか?これだけの病院です。約10分おきに出発する内覧会用の送迎バスは、毎度満席になっていたことは言うまでもありません。


写真5 内部の吹き抜け空間

建物概要:石川県立中央病院
 住  所 石川県金沢市鞍月東二丁目1番地
 敷地面積 96,000㎡
 建築面積 16,000㎡
 延床面積 62,000㎡
 最高高さ 52.9m
 構造種別 鉄骨造、一部鉄骨鉄筋コンクリート造(免震構造)
 規  模 地上10階(地下1階)
 発 注 者 石川県
 設計監理 日建設計名古屋オフィス
 施  工 大成・トーケン・表・鈴木・丸西・石田特定共同企業体(本棟・建築)ほか