Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.77 - 2022/4《from 長野支所》

多冨 一斗/信州大学大学院総合理工学研究科 修士課程1年
岩井 一博/信州大学工学部建築学科 准教授
李  時桓/信州大学工学部建築学科 助教

□ 台風19号の概要とトレーラーハウスについて
 2019年10月に令和元年東日本台風(2019年,台風19号(Hagibis))が日本を襲い,長野市での住宅被害*として計1,038棟が全壊,一部損壊を含めた被害は計4,296棟となりました。その被害を受け,一部の地域では応急仮設住宅としてトレーラーハウスが貸し出されました。この一例のように,トレーラーハウスはキャンプ場やイベント等での利用に留まらず,応急仮設住宅や病床などより,長期的な活用も期待されています。
(*出典:https://www.city.nagano.nagano.jp/site/taifuudai19gou/473015.html)

 昨年度の報告(AH! 73号,長野支所)で筆者らは,応急仮設住宅として提供されたトレーラーハウス内の温熱環境について居住者調査を行い,主な暖房機器としてエアコンと開放型石油ストーブが併用されているため,室内空気環境が悪くなる危険性があると報告しました。また,冬期には床冷えが気になるという意見が多く寄せられました。これらを踏まえて本報告では,エアコンと床暖房を用いて冬期におけるトレーラーハウスの詳細な温熱環境を可視化しました。これにより,冬期におけるトレーラーハウスの最適な暖房方法の提案ができると思います。

 トレーラーハウスとは,牽引車によって牽引可能な車両と定義されます。生活する上で必要最低限の設備を有するため,住居空間としての利用も可能なものとなります。特に,キャンプ地の宿泊施設として娯楽の目的で使われており,近年では,迅速に設置できる点や設置後に移動させて他の被災地で再利用できる点で,応急仮設住宅としての活用が見られるようになっています。また,断熱性能及び気密性能を確認したところ,UA値は0.64 W/(m2∙K),C値は1.1 cm2/m2であり,一般的な仮設住宅と比較すると良い性能であることが分かります。


写真1 トレーラーハウスの外観


図1 トレーラーハウスの平面


□ 調査概要と結果
 トレーラーハウスの室内環境の実態を明らかにするため,冬期にエアコン(CASE 1),床暖房(CASE 2),エアコンと床暖房の併用(CASE 3)における実測調査を行いました。CASE 1はエアコン設定温度を22 ºC(風向き下、風量最大)で稼働させたものであり,CASE 2は床暖房を運転開始から3時間は最大温度レベルで稼働させ,その後は省エネ運転モードで自動切り替えされる制御を行いました。また,CASE 3はCASE 1とCASE 2の稼働条件を同時に行ったものです。実測期間は2022年2月21日~2022年2月23日であり,暖房機器は立ち上がりから測定するため,4:00~18:00の時間帯で稼働させました。また,本測定により,各ケースによる空気温度分布(FL+1,200 mm),床表面温度分布(FL+0 mm)を確認しました。

 図2にCASE 1,CASE 2,CASE 3の4:00,10:00,14:00,18:00における室内温度分布を示します。結果によると,CASE 1は23~17 ºC前後,CASE 2は12~13 ºC前後,CASE 3は21~23 ºC前後で安定されました。CASE 2の床暖房の場合,室内温度が設定温度に到達できなく,不快な環境が形成されましたが,エアコンと併用することにより,温熱快適性が上がる結果となりました。


図2 異なる暖房方法よる室内空気温度分布(FL+1,200 mm)


 図3にCASE 1,CASE 2,CASE 3の4:00,10:00,14:00,18:00における床表面温度分布を示します。結果によると,エアコン暖房より,床表面の温度を高く維持させるために床暖房が有効であることが確認されました。床表面温度25~30 ºC程度が快適だと言われる(空気調和・衛生工学会)ものの,エアコンと併用することで少し熱い結果となっていることが特徴的でありました。


図3 異なる暖房方法による床表面温度分布(FL+0 mm)


□ まとめ
 本報告では,応急仮設住宅として活用されているトレーラーハウスの冬期における温熱環境改善効果について検討を行いました。特に,異なる暖房方法によって,4:00~18:00の室内空気環境を可視化し,エアコンと床暖房を併用することで快適な温熱環境を維持できる可能性を確認しました。この報告により,石油ストーブ,ガスストーブなどの解放型暖房方式を使わず,良好な温熱環境を保つ制御ができることが確認でき,今後,トレーラーハウス内の温熱環境改善に役に立つ方向性が見られたと考えれます。

 今後は,本研究で得られた結果をもとに数値解析を行い,地域性を考慮した最適な暖房方法と,そのために必要となる発電容量について検討を行っていく予定です。詳しくは2022年7月9日~10日に開催される2022年度日本建築学会北陸支部大会にて報告しますので,そちらの方にも目を通していただければ幸いです。