Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.77 - 2022/4《from 富山支所》
森本 英裕/早稲田大学理工総研 嘱託研究員

 富山支所では2021年11月14日(日)、造園家・ポートランド日本庭園 チーフキュレーターの内山貞文氏をお招きして講演会「日本庭園から世界を眺める ─ポートランド日本庭園の軌跡とこれからの取組み─」を開催した。オンラインにて、建築や造園を学ぶ学生や専門家を中心に計58名が参加し、ポートランドからのレクチャーに耳を傾けた。


写真1 オンライン講演会の様子

 まず初めに内山氏のバックグラウンドを伺った。内山氏は明治後期から造園業を営む家庭の次男として生まれ、幼少の頃より職人の手ほどきを受けた。その反動もあり、家業の造園業から離れた道に進み、国際協力事業団JICAでのタンザニア、イエメンの開発協力を経て1988年に渡米、イリノイ大学にてランドスケープアーキテクト学士号および修士号を取得。アメリカではアメリカン・ランドスケープの巨匠ローレンス・ハルプリンや環境デザインの祖イアン・マクハーグ、文化地理学の諸先生から大きな影響を受けた。この経験が現在、日本庭園を哲学やエコロジーや地理学などの多様な角度・視点から捉えることの原点になっているという。


写真2 ポートランド日本庭園(写真提供:Portland Japanese Garden)       

 次に、現在内山氏がチーフキュレーターを努める「ポートランド日本庭園」での取り組みを紹介頂いた。内山氏は1994年に、ランドスケープアーキテクトの栗栖宝一氏とのご縁からポートランドへ移住、2008年よりポートランド日本庭園の初代「ガーデンキュレーター」に就任。2017年に完成した「ポートランド日本庭園拡張計画」では庭園の設計・施工全てを統括し、建築家隈研吾氏とのコラボレーションを取りまとめた。工事期間中は現場に常駐し、石積みから植栽に至るまで、これまでの経験や各職人とのネットワークを活かして完成させた(レクチャーでは計画の考え方や各工程での技術的なポイントを多数紹介頂いた)。また、内山氏は教育に非常に関心を持ち、同庭園内に「国際日本庭園研修センター」を設置、技術の継承のための教科書づくりなど海外での日本庭園の造園技能士の養成に力を入れているという。


写真3 ポートランド日本庭園での日本庭園技術研修の様子

 最後に、内山氏がアメリカ各地で取り組んできた公共日本庭園のプロジェクト等を紹介頂いた。アメリカ各地に残る日本庭園の修復や、大規模なランドスケープ計画、隈研吾氏設計の住宅の庭園など、大小様々な規模の多様な技を見せて頂き、参加者からは多数の質問が寄せられた。内山氏の設計と現場の両面を見据えた視点からの思考・判断を伺うことができる大変有意義な機会となった。


写真4 アメリカ各地でのプロジェクトの紹介の様子

《関連URL》
Portland Japanese Garden https://japanesegarden.org/