Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.77 - 2022/4《from 新潟支所》

津村 泰範/長岡造形大学造形学部建築・環境デザイン学科 准教授

□ 旧機那サフラン酒本舗・鏝絵蔵を題材にした演習
 筆者の在籍する学科には「文化財保存コース」があり、北陸支部長の平山育男先生と2名で担当している。3年次からコースに分かれた演習を行うが、ここ数年はより地域に関わる具体的な歴史的建造物を題材としている。大学における建築教育は、クライアント・工事コスト・施工技術の検討など具体的な条件は外さざるを得ないので、実際の実務の現場からはある程度距離があるシミュレーションに徹することになるのは否めない。ただ、少なくとも「ホンモノとの対話」を試みたいと思っている。今年度の本演習の後期前半は、長岡市摂田屋にあり、現在長岡市が所有し地域のまちづくり会社「ミライ発酵本舗」が運営している「旧機那サフラン酒本舗」の「鏝絵蔵」(国登録有形文化財)の内部活用案を課題とした。「鏝絵蔵」は、大正15(1926)年竣工、桁行5間×梁間3間の2階建てで、外壁に派手な鏝絵をちりばめた特徴的な土蔵である。実測図面を作成し、建築・歴史・地域のリサーチを行い、3グループに分け活用案を提案した。授業内での発表だけでなく、既に整備・公開されている別棟の「米蔵」にて「ミライ発酵本舗」のみなさんに対してプレゼンを行い、コメントをいただいた。今後の整備で何か少しでも実現化することを願ってやまない。
(写真1、2)


写真1 現地でのレクチャー


写真2 最終成果のプレゼンテーション(旧機那サフラン酒本舗・米蔵にて)


□ 与板の土蔵を「お茶カフェ」にするお手伝い
 一方、同学科の北雄介先生経由で、長岡市与板町で文政7(1824)年創業の老舗茶屋「カクタ田中清助商店」の土蔵内部をカフェ仕様にするご相談をいただき「ボランティア実習」という形で北先生と有志の学生6名との協働で取り組んだ。「歴史の中で育まれたありのままの飾らない老舗の雰囲気が非日常感を醸し出す蔵。ここでしか味わえない特別なお茶+スイーツ提供を行って、ファンになってもらえるような体験+サービスをしたい。」というオーナーさんとディスカッションしながら「お店の想いやこだわりをお客さんに知ってもらえる場」を実現すべく、簡単な空間イメージを描く、実践的なリノベーションデザインプロセスをほんの少し体験した。それが目的化しないよう学生参加のDIY施工的な部分は極力抑え、電気工事や木工事はプロが行い、お互いができる範囲でやれることを徐々に作り上げていく試みである。現地で考えられることが学生たちにとっては新鮮で実感もわいたようだ。実習は2021年末に完了したが、2022年春のひとまずのオープンに向けてプロジェクト自体は現在進行中なので、乞うご期待。(写真3、4)


写真3 ディスカッションのための途中成果プレゼン中(当該蔵の1階にて)


写真4 安全対策で付加する階段の手摺の寸法検討中(当該蔵の1階にて) 


□ 長岡まちなかリノベーションサポートセンターと長岡芸術工事中
 長岡市では、中心市街地の再開発手法による再生整備が進行中の一方、増大する遊休不動産の活用が進んでいない。このため、リノベーションまちづくりの実践が望まれ、「長岡まちなかリノベーションサポートセンター」が設立され、2019年から筆者はその代表を務める。活動はコロナ禍もあって困難を極めるが、2015年から本学教員・学生有志がデザインやアートに関わる活動を中心市街地で展開していた「ヤングアート長岡」(2019年から「長岡芸術工事中」に改称して発展)を、遊休不動産活用の実践をする活動と位置付けてサポートしている。

□ 長岡市立互尊文庫の建築史的価値づけ
 現・長岡市立互尊文庫は、吉武泰水東大教授(建築計画)を委員長とする日本図書館協会施設委員会の専門家たちが利用者の合理性を追求して当敷地に合う形で計画したプロトタイプ公共図書館で、昭和42(1967)年に竣工した。中心市街地再開発に伴い機能移転が決定していることもあり、筆者は2019年度「日本におけるモダンムーブメントの建築」選定建築物に推薦し、2020年5月に正式に選定された。今後はこの建築の市民へのさらなる認知の促進と継承・活用の計画に協力をしていきたい。(写真5)


写真5 長岡市立互尊文庫外観