《富山》吉久におけるまちづくりと町家を活用した展覧会の実践
AH! vol.76 - 2022/1《from 富山支所》
亀山 文音/富山大学芸術文化学部芸術文化学科4年 籔谷研究室
□ 工場地帯の重伝建
富山県高岡市吉久地区(以下、吉久)は2020年12月に国の重要伝統建造物群保存地区(以下、重伝建)に選定された。
加賀藩の年貢米を収納する「御蔵(おくら)」の設置により在郷町として発展し、御蔵の廃止後も米穀商を中心に栄えた。
放生津往来の緩やかに湾曲した道に沿う町並みには、江戸後期までに形成された地割とともに、江戸時代から近代に建てられた切妻造平入りの町家が残る。それらは高岡の小矢部川加工部に栄えた在郷町の歴史的風致を良く伝える、価値が高いものであることから重伝建選定へと繋がった。
□ 吉久におけるまちづくり
吉久では「吉久まちづくり推進協議会」や「NPO法人吉久みらいプロジェクト」を中心に、町並み保全活動や空き家の管理・活用に取り組んでいる。
富山大学芸術文化学部籔谷研究室では、2019年から住民参加型のまちづくりワークショップ「よっさまちづくり会議」の企画・運営を中心に吉久のまちづくりに関わっている。
2021年度は全3回のワークショップを企画し、富山大学芸術文化学部の田邊研究室とも協力しながら企画・運営に取り組んできた。
第1回は「知ろう、よっさ」と題し、7月に開催された。学生がファシリテーターとなってグループワークを進行し、「吉久の良いところ・改善したいところ」についてブレーンストーミング法を用いて話し合い、吉久の現状を知ることからスタートした。
11月に開催の第2回「歩こう、よっさ」では、第1回で得られた意見をもとに「子どもの遊び場」「憩いの場」「自然」という3つのテーマを設定し、エリアごとにグループに分かれてまち歩きを行なった。まち歩き後にはグループワークを行い、白地図に直接書き込んだり、まち歩き中に撮影した写真を貼ったりして発見した資源の整理を行なった。
第3回「話そう、よっさ」では、第1回で得られた吉久の良さ・改善点、第2回で発見・整理した地域資源を今後どのように活用し、何を実現したいか話し合う予定である(2022年2月開催予定)。
こうした連続的なワークショップが、住民の間で将来ビジョンを共有するための「場」となり、まちづくりの新たな参加者、未来の担い手を発掘する「機会」となることを目指し、「よっさまちづくり会議」は続く。
□ 展覧会「記憶する家」
吉久で1999年から開催されている「さまのこアートinよっさ」の一環として、町家を活用したインスタレーションの展覧会「記憶する家」を、2021年10月16日〜22日に開催した。
会場となった町家は、空き家となったことで取り壊す話もあったというが、住人によって大切に手入れされてきたこともあり、今の所有者の手に渡った。現在は「農庵(みのりあん)」という名前が付けられ、重伝建選定を機に修復工事も行われている。
展覧会のテーマは「記憶」。家が抱える記憶を感じてもらいたいと考え、もともと家にあった食器や農具などを作品やサインに活用した。
2名の作家によるインスタレーションが展示され、町家という空間が作品そのものへと姿を変える様はとても印象的であった。
今回の展覧会が、吉久に多く存在する空き家活用の一つのモデルとなり、「さまのこアートinよっさ」の向上、さらには吉久の発展へとつながることを願う。
《参考URL》
1 高岡市公式ホームページほっとホット高岡「吉久伝統的建造物群保存地区」 https://www.city.takaoka.toyama.jp/bunkazai/kanko/bunka/jigyo/yoshihisa.html
2 展覧会「記憶する家」特設サイト https://select-type.com/p/kiokusuruie/