Webマガジン■AH!■

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AH! vol.76 - 2022/1《from 長野支所》

李  時桓/信州大学工学部建築学科 助教
近藤 志樹/信州大学大学院総合理工学研究科 修士課程2年
武藤 祐太/信州大学工学部建築学科 4年

□ ミスト噴霧の現状
 ミスト噴霧システムは水の蒸発潜熱を用いて空気を冷却させ,冷空気及びミストを人体周辺に送ることで,夏期の屋外環境での温熱感覚と快適性を改善させるために多く利用されている(図1)。本研究では,ミスト噴霧により冷却された外気を室内に取り込んだ際の室内温熱環境改善効果について明らかにすることを目的とする。研究を行うにあたって,実大物件における実証実験を行った。


図1 屋外でのミスト噴霧


□ ミスト噴霧による室内温熱環境の改善効果
 長野市に所在するトレーラーハウスを実測対象とした。床面積は35.5 m2,室内容積は78.1 m3であり,寝室とリビングは一室となっている。2021年の9月に9:00~16:00にかけて実測を行った。図2に測定の概要図を示す。ミストの噴霧は8:30から行い,南面の軒高に設置した10か所の噴霧口から合計20 L/hの水を噴霧し続けた。実測項目は室内外温湿度,室内外風速,グローブ温度について測定した。リビングには,南面に高さ2.0 m,幅1.6 m(最大開口幅:0.68 m)の窓と,北面に高さ0.8 m,幅1.2 m(最大開口幅:0.48 m)が設置されており,実測中は,この二面の窓を最大開口幅で開放し自然換気により,外気を取り込んだ。


図2 実測対象概要


 図3に実測実行日における外部環境に関する測定結果(a: 温度,b: 湿度,c: 風速,d: 風向頻度)を示す。どちらも気温が27 °Cまで上昇し,湿度,外部風速も同傾向で推移した。
 図4に13:00におけるミスト有無に関する室内温度分布の比較を示す。ミストを噴霧しない場合,室内が約27 °Cで維持される一方,ミストを噴霧した場合,約24 °Cで維持された。両日ともリビングの南・北面の窓を最大幅で開放していたため,棟の中央で東西に分布が分かれる傾向となった。

  (a) 温度            (b) 湿度          (c) 風速         (d) 風向頻度


図3 測定日の外気条件


(a) ミスト噴霧あり                     (b) ミスト噴霧なし


図4 ミスト噴霧有無による室内温度分布の比較


 図5に室内中央における温湿度の推移と着衣量を1 clo,代謝量を1.1 metと仮定した場合のPMV (Predicted Mean Vote)の推移を示す。(a)について,ミストを噴霧することにより最大で2.9 °Cの温度低下が確認された。(b)について,朝方と夕方は気温が下がるため,ミスト噴霧による過度な湿度の増加が確認されたが,日中の室内湿度は60%程で推移した。ミストを噴霧した場合,9:00~10:30では外気温が22 °C~24 °Cと低かったため,PMVが-1.0付近で推移する結果を示した。しかし,11:00~16:00では0付近で値が推移する傾向が確認された。
  
    (a) 温度            (b) 湿度            (c) PMV


図4 ミスト噴霧による室内温熱環境の改善効果

□ まとめ
 夏期において,屋外で噴霧したミストを自然換気により室内に取り込んだところ,室内温度は最大で2.9 °C低下した。また,PMVに関しても日中での一定の改善効果が確認された。しかし,朝夕の気温が低い場合では,過度に影響してしまうため,適切なスケジュールで運用する必要がある。