《石川》金沢建築館「金沢のチカラ」展について
AH! vol.76 - 2022/1《from 石川支所》
竹内 申一/金沢工業大学建築学部建築学科 教授
令和3年1月5日から10月30日まで、金沢の寺町にある谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館において「金沢のチカラ-重層する建築文化-」展が開催された。本展覧会は、藩政期から現代へつながる金沢の建築文化を、建築の専門家だけでなく一般に人々にも広く紹介することを目的に企画された展覧会である。
金沢は、藩政期につくられた都市の構造や建造物が保存され、明治・大正・昭和・平成それぞれの時代が積層しながら形成された都市である。世界大戦の戦禍や大きな自然災害といった大きな断絶がなかったことが大きな要因ではあるが、近代化と開発によって都市の刷新を繰り返してきた日本においては、そうした重層性を保った都市の存在は稀有である。それは決して偶然によってもたらされた訳ではなく、各時代のターニングポイントにおいて、金沢の進むべき方向をしっかりと見定めて来た人々の営みと決断があったからこそ可能だった。全国に先駆けた「伝統環境保存条例」の制定とその背景にあった谷口吉郎らによる「金沢診断」、市民が良質な景観や建築を誉めることで都市の質を向上させようとする「都市美文化賞」の創設、広大な緑地と文化施設によって都市の中心を形成しようとする「兼六園周辺文化ゾーン」の提案、取り壊されてしまった辰野金吾やヴォーリズによる名建築の保存運動など、金沢のまちや建築の魅力と価値は人々の声と行動によってつくられてきた。
テーマである「金沢のチカラ」を読み解くキーワードとして、「地カラ」「血カラ」「知カラ」の3つのチカラが展覧会冒頭の主旨文に挙げられたが、これはそれぞれ「土地や風土」「人々とその営み」「文化や美意識」を意味している。大きなサイズの写真や模型・図版に加え、様々な出来事とそれに関連する新聞記事、インタビュー映像によるオーラスヒストリー、書籍などから引用された言葉などを交えた展示構成となっており、金沢の建築文化と、その背景にある3つのチカラの源泉である人々の営みの物語が描き出されていた。
その地域に生きる人々が自分たちの宿命を自覚して受け入れ、誇りに想いながら文化を醸成する土壌を形成する。豊かな建築文化は、そうした土壌なくしては生まれないし、存続していくことが出来ないのかも知れない。この展覧会は、これからの土壌を形成してゆくべき金沢の人々に向けられたメッセージであると共に、地域における建築文化の在り方や可能性を広く問う展覧会であったと言える。