《新潟》湊町新潟における歴史的な景観保全の取組み
AH! vol.76 - 2022/1《from 新潟支所》
加藤 健二/新潟市都市政策部まちづくり推進課 主査
□ 湊町新潟の地勢
新潟は信濃川の河口に位置し,湊町として栄えた都市である。1655年に現在の位置に町が形成され,わが国初の都市公園の1つである白山公園(国指定名勝)を南端に,信濃川の流れに沿うように北東方向へ約2kmにおよぶ町が形成された。このエリアの北端には,廻船問屋の邸宅である旧小澤家住宅(写真1,市指定文化財)や北洋漁業で栄えた鮮魚問屋の邸宅である旧片桐家住宅(写真2,景観重要建造物,登録有形文化財)など湊町新潟の歴史に関係の深い歴史的建造物が建ち並ぶエリア(以下「地区」という。)がある。
□ 旧小澤家住宅の整備と新潟大学の演習を契機とした住民の取組み
旧小澤家住宅は新潟町屋の特徴をよく表している歴史的建造物の1つであり,平成14年度に市が所有者から寄贈を受けた。市では旧小澤家住宅の活用について有識者などと検討を重ね,平成18年度から整備を開始し,平成23年度から「北前船の時代館 旧小澤家住宅」として一般公開を開始している。
旧小澤家住宅の整備後,新潟大学では平成24年度から,演習(講義)として,地区の活性化に資する様々な取組み提案を実施している。この演習での提案を受けて,地区住民から「景観形成に向けた取り組みを行いたい」と市へ申し出があった。これを受けて市は新潟市景観条例に基づき,地区住民らで構成される「旧小澤家住宅周辺の歴史的町並みを考える会(以下「考える会」という。)」を「景観形成推進組織」として認定し,良好な景観形成に関する情報提供や助成金の交付などの支援を行っている。考える会では,助成金などを活用し,歴史的な景観の保全に関する勉強会やイベントの実施などを行なっている(写真3)。
□ 高層建築に対する懸念と景観計画の住民提案
平成29年度に地区内の元スーパー及び共同住宅が競売にかけられた。当該施設は敷地面積約750㎡と大きく,地区住民らは当該施設跡地に高層建築が建築されることによる,ビル風などの住環境の悪化などを懸念した。考える会では高層建築の建築を未然に防止するためには,法令に基づく高さ規制などが必要ではないかと検討を重ね,結果として,高さ規制と併せて,歴史的な景観の保全にも活用できる「景観法に基づく規制」を導入することとした。
考える会では「景観法に基づく景観計画の住民提案」を目標に,会員以外の地区住民へ景観法に基づく規制の説明にまわった。説明にあたり市も同行し支援を行った。また,景観計画案の作成にあたっては,考える会が,前述の市の助成金を活用し,新潟大学(都市計画研究室)に委託し作成した。結果として,景観計画案について地権者の約80%の合意を得て,景観法に基づく住民提案に至った。(写真4)。
□ 景観法の活用と住民による歴史的建造物の活用
市では景観計画の住民提案を受け,新潟市景観計画及び新潟市景観条例の改正など必要な手続きを行い,令和2年11月から新たな景観計画を施行し規制を開始している。さらに翌年の令和3年9月には地区内の旧片桐家住宅を景観法に基づく「景観重要建造物」に指定し,歴史的な景観の保全に取り組んでいる。
地区内では,令和元年度に民泊施設OTONARI(写真5,登録有形文化財),令和2年度には上記旧片桐家住宅を活用した飲食店の開業など,歴史的建造物を活用した事業が始まっている。
地区の近隣には湊町新潟の歴史的な景観を残す,旧齋藤家別邸(国指定名勝)周辺地区や古町花街地区があり,市では道路の石畳舗装などに取り組んでいる。今後も官民が連携し,これら湊町新潟の歴史的な景観保全に取り組んでいきたい。