《富山》全く新しい木造接合部金物の開発
AH! vol.74 - 2021/6/20《from 富山支所》
大氏 正嗣/富山大学芸術文化学部 教授
従来から、木造建築物の接合部はピン接合となるのが常識である。もちろん、大断面になると剛性をある程度確保できる接合方法は存在するが、木材に異方性(剛性の高い繊維方向と弱い繊維直交方向)が存在するため、どうしても弱軸側のめり込みにより剛性が決定してしまうという問題があった。このような中、新たに開発中の接合部金物は木材の剛性が高い繊維方向同士を直接接合するという、これまでにない全く新しい概念により構成されている。使用する金物は非常に単純な機構によるため、安価に製作が可能であり普及に対するコスト上の問題もない。
開発中の金物やその機構は既に特許出願しており、2021年8月に開催される木材工学の国際会議であるWCTE2021で発表される。現時点では、無補強の場合と比較して約3倍の剛性が確認できている。繊維方向同士を接合した場合には、剛性差により20倍程度の剛性増大があってもおかしくないが、接合部におけるせん断剛性が大きく影響しており、今後は当該現象の解明および、さらなる剛性増大を導く手法の開発を継続して実施する。
なお、本構法は主に面格子材において大きく効果を発揮できる。特に、木造の柱材と同程度の断面(105×105、120×120)を用いて600~900mmピッチの面格子を用いても、構造用合板張りと同等の壁剛性が確保できることを想定している。また、本構法は床にも採用可能であり、床組みを重ね透かし梁として組み上げることで床面に構造用合板を用いなくとも床面のせん断剛性を確保可能となる。
なお、現状では欠き込みを設けて嵌合接合としているが、欠き込みなしであっても対応が可能である。
本構法の抱える問題点としては、木材の縮みや施工誤差に伴う初期緩みがある。これを低減するため、金物を変形させてプレストレスを与える方法を検証している。これにより常に木材に対して圧縮力がかかることで、初期緩みを解消して強固な結合となることを実験により確認した。
本構法の適用範囲は、既に記載した一般流通材を用いた面格子壁や床面だけでなく、大断面木造や伝統的木造建築物の構造補強にも広がる。壁に用いる場合には、600~900グリッドの面格子の隙間を窓に利用することで、閉鎖性のない光と風を通す耐力壁が実現できる。床に採用した場合には、床面を構造用合板により閉鎖するのではなく、ALC版を用いることやグレーチング床を使用するなど、木造設計の可能性を大きく広げることができる。また、本来交差部の回転剛性を向上させるものであるため、一般流通材よりも大断面木造の方がより効果が大きくなる。架構の組み方をこれまでと変える必要はあるものの、新しい木造建築の可能性を切り開くことができる。
本研究は、まだスタートしたばかりなので、今後設計式の構築や設計施工マニュアルの作成に向けて検証を進めていく予定である。この構法が、北陸地域から生まれた新しい有効なものとなるように努力していきたい。