Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.73 - 2021/4/20《from 長野支所》

岩井 一博/信州大学工学部建築学科 准教授
李  時桓/信州大学工学部建築学科 助教
多冨 一斗/信州大学大学院総合理工学研究科 修士課程1年

□ 台風19号の概要と応急仮設住宅
2019年10月13日に台風19号による猛烈な雨の影響で,長野県の千曲川など21河川,24ヵ所で堤防が決壊し,住宅地などで大規模な洪水の被害が各地で発生した。千曲川の氾濫で被害を受けた一部の市民は一時的に応急仮設住宅で生活をする必要があり,上松東仮設団地(木造)32戸,若槻団地運動広場仮設団地(木造)23戸,昭和の森公園仮設団地(プレハブ造)45戸,駒沢新町第2仮設団地(トレーラーハウス)15戸が作られました。これらの応急仮設住宅は,入居期間が2年間(令和元年12月1日~令和3年11月30日)であり,家賃は無料,光熱水費・自治会費・入居者の過失による修繕費等は入居者が負担するものとして提供されている。

□ 仮設住宅としてのトレーラーハウス
トレーラーハウス(図1)とは,自動車によって牽引可能な車両のことであり,必要最低限の設備を揃えて住宅として利用することが可能である。主にはキャンプ地に牽引して移動先で宿泊施設としての利用などの娯楽目的で使われてきたが,迅速に設置できる点や設置後に移動させて他の被災地で再利用できる点で,応急仮設住宅としての活用が見られるようになっている。また,断熱性能及び気密性能を確認したところ,UA値が0.54 W/(m2·K),C値が1.7 cm2/m2(減圧法)であり,一般的な仮設住宅と比較しても良い性能を示している。


図1 トレーラーハウスの内観


□ 住環境の実態調査
筆者らはトレーラーハウス居住者の実生活時における室内環境(温熱環境,空気環境)を明らかにするため,冬季(2020年2月)と夏季(2020年8月)に分けて,実測調査を行った。
図2に夏季におけるトレーラーハウス内の温熱環境とCO2濃度の時系列変化を示し,図3に冬季の調査結果を示す。建築基準法,建築物衛生法に定められている室内環境基準(17~28 ºC,40~70 %RH)の観点から見ると,冬期の深夜/午前,夏季の午後には基準値を満たさない条件で生活していることが確認できた。CO2濃度の時系列変化では,夏季に最大4,000 ppmまで上昇し,冬季には10,000 ppmに達する日も見られた。これは開放型石油ストーブを使用し,また換気を行っていないことが起因であると考えられる。


図2 夏季における室内温湿度と室内CO2濃度


図3 冬季における室内温湿度と室内CO2濃度


□ まとめ
筆者らは応急仮設住宅として活用されているトレーラーハウスの住環境について実態調査を行い,以下の知見を得た。
(1) トレーラーハウス内の温湿度の実態を空気線図上に示し,夏季には午後に基準値を満たさない環境で生活していることを明らかにした。また,換気を行わない場合は,室内CO2濃度が4,000 ppmまで上昇することが分かった。
(2) 冬季には,深夜/午前中に室内環境基準(17~28 ºC,40~70 %RH)を満たさない環境で生活していることを明らかにした。また,開放型石油ストーブの使用や,換気を行わなくて生活することにより,室内CO2濃度が10,000 ppmに達することも見られた。
今後は本研究で得られた結果を居住者に伝達し,当該トレーラーハウスの住まい方について啓蒙する予定である。また,今後のトレーラーハウスの災害時を含めた様々な活用の可能性についても検討を行っていきたい。

以上の研究成果は2021年7月17日~18日に行われる2021年度日本建築学会北陸支部大会で下記の題目で発表する予定である。
・題目:令和元年東日本台風の長野市応急仮設住宅における住環境調査(その3)仮設住宅として活用されるトレーラーハウスの温熱環境と空気環境に関する研究
・著者:多冨一斗,岩井一博,李 時桓,西川嘉雄,高村秀紀,中谷岳史
・日本建築学会北陸支部大会学術講演梗概集,2021年7月(口頭発表予定)