《富山》「富山大芸文×石動商店街」-小さなしかけで街を変える
AH! vol.73 - 2021/4/20《from 富山支所》
萩野 紀一郎/富山大学芸術文化学部 准教授・萩野アトリエ
□地域で学ぶ
街や地域には、建築を学ぶ生きた教材が溢れている。
富山大芸術文化学部(以下「芸文」)建築デザインコースでは、「建築再生」に力を入れ、その設計や演習課題はすべて地域に飛びだし、実際の街や建物を舞台に実施している。
そのひとつが、3年生後期の設計演習「空間デザインF(建築再生)」の後半の課題、「富山大芸文×石動商店街」である。この課題は2017年から4年間、11月から2月にかけて取り組んでいる。
□石動商店街
石動商店街は、あいの風とやま鉄道の石動駅北側にあり、かつて江戸時代には北國街道の宿場町、明治から昭和にかけて小矢部市の中心部として栄えていた。1970~80年代にかけて、防災建築街区事業とともに道路が拡幅され、商店街の多くが木造からRC造に建替えられたが、それと前後して街道沿いの大型店舗の進出、高齢化、大都市部への人口流出の影響を受け、現在では空き店舗、空き家が目立ってきている。2015年には商店街から数キロ離れた街道沿いにアウトレット・モールができ、年間約300万人もの集客がある一方、商店街の空洞化はより深刻化した。
□マクロでなくミクロな視点からのしかけ
アウトレット客の1%でも商店街へ導けないかと、市や商工会は2016年頃からまちづくりの検討委員会を立ち上げ、商工会が空きビルを改修して活性化しようとする計画も動き始めた。
親交のある中央大の谷下雅義教授の縁で、私も検討委員会へ参加する機会を得て、石動商店街の現状を目の当たりにした。
早速2017年度から学部3年生の建築再生の設計演習で、石動商店街を題材にすることにし、市や商工会の協力で授業も商店街で実施させていただいた。また、授業には、市や商工会、地域おこし協力隊メンバー、地元のNPOまっちゃプロジェクトの方々も、ゲストとして参加いただき、様々なアドバイスをいただいた。
履修学生は毎年10人ほどの少人数で、後期の後半だけ10週間ほどの短い期間の課題である。前半は、各自の視点からフィールド調査と分析を行い、後半はその成果を活かして、空き店舗や具体的な場所を絞ってリノベーション計画を提案するという課題である。
この課題では、地図や文字に留まる大きな視点からの提案ではなく、具体的なかたちに即した小さな提案を求めている。都市計画的なマクロな視点はもちろん大切だが、具体的に実現可能なミクロな提案こそ、建築が地域に対してできることではないだろうかと考えているからである。
□地域の方々への成果発表
学生たちは、毎週の授業だけでなく、授業の空き時間に調査に行き、商店街の方々に話を伺った。教員としてはこれだけで満足してはいけないのだが、大学生が街を歩き回るだけでも、まずは商店街への刺激の第一歩になったと思う。
地域を題材にした課題では、地域の方々へ成果を還元することが重要である。毎年2月、課題の最後に、現地で地域の方々への発表会を実施してきた。今年度は新型コロナ対策のため、会場は少人数に抑え、オンライン配信を行った。
https://www.facebook.com/watch/live/?v=343439043546416&ref=watch_permalink
https://www.facebook.com/watch/live/?v=815487885709010&ref=watch_permalink
学生にとって、地域の方々へ発表する機会は大きな学びの場となる。わかりやすい説明が求められ、現実的な厳しい指摘なども多くいただいた。
これまでの4年間、学生たちの提案は実に多様であった。例えば、周辺に点在する土蔵に注目したもの、裏路地や空きガレージを活かした計画、この地区の歴史と多く存在する寺院の活用、地元特産のハト麦や卵などを活かした飲食店、石動に欠乏している宿泊機能の分散配置、アーティスト・イン・レジデンス、銭湯によるコミュニティ、若者に人気のある古着やアンティーク、古本や古レコード、緑化やコミュニティ農園、車道の歩道化、ストリートファニチャー、上からの照明でなく目線の高さの灯りの提案、などなど。
□実際のプロジェクトを目指して
授業なので毎年学生は入れ替わるが、教員としては、これらの成果を積み上げながら、毎年提案の質を向上させ、そして、実際のプロジェクトにつなげていき地域に還元することが使命であると痛感している。
今年度の成果として、以下のふたつについては継続して取り組んでいく予定である。
ひとつは、空き家や空き店舗が目立つ防災建築街区についてである。防災建築街区は縦割りの区分所有となっていて、管理規約もなく建て替えも難しく、所有者も近隣の方々も行政もなかなか踏み込んでいけない忌避的な問題ともいえる。しかし、若い学生たちは素直にレトロな側面から評価し、地域資源として真正面から捉えていた。
防火建築帯や防災建築街区の活用は、石動商店街だけでなく、北陸地方にとって大きな課題であるので、今後、この授業だけでなく研究室としてより詳細に調査を重ねて、是非、具体的なリノベーションや活用計画につなげていきたい。
また、今年度の提案では、実際に自家製のランタンをつくり、商店街の軒下や路面に、街を照らすあかりを点在させる実験を行った。現在、地域でイベントを活発に行っているNPO法人まっちゃプロジェクトとともに、この案の具体化の検討がスタートしている。
芸文では、この授業だけでなく、地域での様々な小さな活動を積み重ねていきたいと考えているので、アドバイスその他も是非お寄せ願いたい(kbhagino@gmail.com)。