《長野》マスク着用による呼吸特性の変化
AH! vol.72 - 2021/1/6《from 長野支所》
李 時桓/信州大学工学部建築学科 助教
田村 聖/信州大学工学部建築学科 4年
岡村 晃/信州大学大学院総合理工学研究科 修士課程1年
□ コロナ禍におけるマスク着用の一般化
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により,これまでの生活とは一転し「新しい生活様式」への移行が求められています。特に感染拡大に大きな影響ある飛沫感染と接触感染に対する防止策として促進されているのがマスクの着用です。コロナ禍において,外出時や公共施設など屋内においてマスクを着用することは暗黙の了解になりつつあります。
一方で,長時間のマスク着用による息苦しさ(疲労感)や夏場のヒートストローク(熱中症)などの健康被害も問題となりつつある(図1)。信州大学工学部建築学科の李研究室では,マスク着用時の適正な室内環境制御法を提案するために,マスク着用の有無による呼吸特性の変化を明らかにする研究を行っています。
□ マスク着用による呼吸特性
マスク着用による呼吸特性を検討するために,研究室メンバーを対象に被験者実験を行いました。マスクなしとマスクありのそれぞれの場合について,安静時での呼吸温度・湿度・CO2濃度を測定しました(図2)。測定は5分間ずつ行い,すべてのパターンにおいて30秒間安定したデータを得られるようにしました。
図3にマスク着用の有無による呼気・吸気のCO2濃度と温度を示します。両グラフともに値が上昇するときが呼気,値が減少しているときが吸気を表しています。マスクを着用した場合,呼気・吸気ともにCO2濃度が上昇していることが分かります。これは,マスク内に滞留が生じ呼気の一部が再び吸引されたためと考えられます。また,マスク着用時には吸気の温度も上昇しました。
以上の結果を用いて,1呼吸によるCO2摂取量と呼吸により排出する熱量を算出しています(図4)。結果を見ると,マスクの着用によりマスク無の場合と比較して1回の呼吸で3.87倍のCO2を摂取することが分かります。また,マスクを着用すると呼吸による熱の排出が9.6 W減少しました。この結果から,マスクをする場合に体の排熱量を維持するためには、室温を約1ºC下げる必要があるといえます。
□ まとめ
本研究によって,マスクの着用はウイルスの感染拡大を抑制する一方で,体に取り込む空気質の悪化や排熱の阻害を引き起こす可能性があることが分かりました。このことから,マスクの着用時には通常とは違う,「マスク着用時に対応した室内空気・熱環境の制御」が必要であるといえます。李研究室では引き続きマスクと室内環境に関する研究を行っていく予定です。