《富山》地域の人々と進める空家リノベーション
AH! vol.71 - 2020/09/30《from 富山支所》
川本 聖一/ 富山国際大学 現在社会学部 教授 環境デザイン専攻 専攻長
□川本研究室1)
本学の現代社会学部は、さまざまな社会的問題や現象、人間の社会的生活について幅広く研究する学問分野です。その中で環境デザイン専攻は、身の回りの環境から地球規模にいたるまで、環境を考えるという専攻です。川本研究室では、環境デザイン専攻の中にあって、「住環境」を担っている研究室です。研究室の卒業生は、技術者としてではなく、主に営業担当として、県内を中心に住宅関連産業に巣立っていきます。担当教員としては、学生が社会に出たときに直接役に立つことをゼミ活動や卒論を通して経験してもらいたいと思い指導しています。
学生は地域の人たちと協働することで、現在の地域に存在する諸問題やその解決方法を自らの体験をもとに考え、人とコミュニケーションをとることによってそれを解決していきます。机上の学習や実験室の研究では得ることのできない経験をすることができます。私は、このような経験こそが、社会に出てから、直接役に立つ能力となって行くと考えています。
□「カーサ小院瀬見」とともに空家リノベーション
今回報告するのは、地域の活動をピーアールするギャラリーとゲストハウスに、空家をリノベーションするというプロジェクトです。一緒に協働した「カーサ小院瀬見」2)は、南砺市の南西に位置する小院瀬見という限界集落に所在する循環型農村の構築や地区の活性化を目指して活動しているグループです。このグループは南砺市福光町周辺にいくつかの空家を所有しており、その空家を地域の活性化のために役立てようとしています。
現場調査は、2018年4月から始まりました。3名の学生が協力して、テープおよびレベラーを用いて敷地測量、建物調査、公図・登記簿謄本調査を行いました。もちろん学生にとっては初めての経験です。また、富山県砺波土木センター、富山県砺波厚生センター、南砺市消防局へのヒアリングも学生が行いました。その都度、各担当の方が親切に指導してくれて、計画は進んできました。
□ワークショップと計画の決定
「カーサ小院瀬見」のメンバーの中には、地元に根差した店舗を営むことや、無農薬農業を通して、地域活性化を行っている人がいます。今回の空家リノベーションが、その中でどのように位置づけられ、関係性を持っているのかを、メンバーの人々とワークショップ形式で議論しました。その結果、2階をゲストハウス、1階を福光で行われていた麻布づくりを復興させてそれを見学できるギャラリーとして整備する方向となりました。また、福光町の観光案内、福光町における麻布づくりの歴史についても調べることにし、その調査研究結果を、ギャラリーに展示することになりました。
□近隣説明と工事開始
外部の本格的な工事を前に、近隣への説明を行いました。まず、ゲストハウスのリーフレットを作成し、近隣住民の宅を訪ねて説明し、説明会も行いました。学生が主体的に行ったので、近隣の住民も快く聞いてくれました。
2019年1月、学生が主体になり、プロの職人さんの指導を受けながら工事がスタートしました。ギャラリーに展示する「はたおり機」の制作も行いました。
主なリノベーション工事内容は、1階の柱の補強、1階床の下地改修と板張り、2階の間仕切り壁の増設、手塗による漆喰壁施工、透明のシーラー材による土壁補修、既存階段の移設、トイレやシャワー室新設、外壁断熱材施工などです。特に内装部分において学生が主体的に工事を行いました。工事の模様は、新聞報道されました3)。
□学生が調べたことをギャラリーに展示
ゲストハウスの来訪者の関心を引く展示物として、麻布の歴史パネル、福光町で唯一機織りが出来る方「聞書き」の冊子、機織り機のマニュアルを学生が作成しパネルとして展示しました。また、ゲストハウス来訪者のために、福光町のガイドマップを作成しました。これは、実際に学生が町歩きを行い、飲食店14店舗と土産物屋16店舗を記載しました。このマップは、ギャラリーはもとより、近辺の公共施設に設置されました。
□ゲストハウス「絲」4)オープン
ゲストハウスは2020年1月にオープンしました。地域のためのギャラリーには、福光麻布織体験ができるコーナーを設置しました。内覧会の模様は、新聞報道され5)、来訪者が機織機「チャンカラ」に座ってのれんづくりを楽しく体験していました。
□おわりに
2018年4月から始まったこのプロジェクトは、約2年経過し、目標であったゲストハウスオープンに漕ぎつけることができました。この間、卒業研究6)7)としてこのプロジェクトに取り組んでくれた学生は、すでに卒業して、進学したり、実社会で活躍しています。このプロジェクトを通して、多くのことを学んでくれたと思います。
現在、福光町に近接する南砺市才川七地区において、2020年4月から「南砺市才川七の古民家再生事業」をスタートさせています。才川七地区では、地域の人たちが休耕田でのブドウを栽培し、ワインを製造することによって、または無農薬のトマトや、米を生産することによって地域活性化を図ろうとしています。そこで、才川七地区にある古民家をコンバージョンすることにとって、休耕田を利用する地域農業の6次産業化を手助けするゲストハウスを企画しています。今後もこのプロジェクトは続きます。
参考文献
1) 富山国際大学 現代社会学部 環境デザイン 川本研究室( https://www.facebook.com/Kawamoto.Laboratory )
2) Casa - カーサ - 小院瀬見( https://www.facebook.com/casakoinzemi/ )
3) 「空家再生ゲストハウス」,『北日本新聞』,2019年8月28日,朝刊
4) ゲストハウス絲,「ようこそ絲へ」,( https://ito-gh.com/ )
5) 「福光麻布織り体験」,『北陸中日新聞』,2019年12月23日,朝刊
6) 「地域の人々と進める空家リノベーション その1‐地域の人々との協働の記録‐」,富山国際大学 現代社会学部紀要 第11巻2号 112-131頁,2019年3月,( https://www.tuins.ac.jp/library/pdf/2019gensha-PDF/201903-09kawamoto.pdf )
7) 「地域の人々と進める空家リノベーション その2‐地域の人々との協働の記録‐」,富山国際大学 現代社会学部紀要 第12巻2号 69-84頁,2020年3月,( https://www.tuins.ac.jp/library/pdf/2020gensha-PDF/202003-05kawamoto.pdf )