Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.71 - 2020/9/30《from 新潟支所》

松井 大輔/新潟大学工学部工学科建築学プログラム 准教授
山下 裕子/全国まちなか広場研究会 理事
宮下 拓也/新潟大学大学院 博士前期課程

1. 開催の概要
北陸支部大会の一企画として、7月19日(日)午後に男女共同参画事業を開催しました。研究発表会と同様、本年度はオンラインでの開催です。講師に広場ニストとして活躍される山下裕子さん(全国まちなか広場研究会)をお招きし、都市の中の公共空間のあり方について、「まちなか広場が生きた景観を育てる」と題した講演と参加者の皆さんとの議論を展開しました。
山下裕子さんは、富山市まちなか賑わい広場(グランドプラザ)に開業前から長年携わり、その後は八戸・明石・久留米などでまちなか広場の開業に関わってきた方です。建築を「つくる」という視点ではなく、建築・都市空間を「使う」という視点に重きを置いてお話しいただきました。山下さんから「ラジオのトーク番組のように進めたい」という要望があったことから、講演の途中で司会から質問を入れたり、若い参加者から積極的な質問があったりなど、まるで広場でおしゃべりをするような感覚で話を進められたように思います。また、オンライン開催ということもあって、北は札幌から南は福岡まで、全国各地の方々にご参加いただきました。これらにより、例年とは異なる雰囲気の議論の場を創り上げることができたのではないかと考えています。参加者は21名でした。


写真1:富山市まちなか賑わい広場の景観(提供:山下裕子氏) 

2. まちなかに広場をつくることの意義
今回のテーマにある「まちなか広場」とは、どんなところなのでしょうか?
山下さんは「公共交通の結節点を内包・安心できる歩行者専用空間・余白を感じることができる・他者に寛容になれる居場所」といった点が大事だと考えているそうです。話を聞く中で、特に、余白と寛容が「キー」になるという印象を受けました。つまり、特定の目的を持たない余白の空間であることが、様々なヒトとコトを共存させることに繋がり、それら曖昧多義な要素の相互作用の中から新しいコトが生まれそうという期待感が発生します。そして、それぞれの利用者が互いの活動に対して寛容であって、なおかつ互いに見る・見られるの関係になることで、自由の中にも秩序だった広場のアクティビティが生まれるということです。しかし、これらは自然発生的に実現するものではなく、そこには仕掛けの存在が必要となります。例えば、テーブルや椅子の位置を変えて変化をつけたり、積み木で遊べる空間を仕上げてみたり、「お節介」というコミュニケーションを通して滞留や新陳代謝を促したりなどのマネジメントが大事になってくるのでしょう。富山市のグランドプラザでは、そのようなマネジメントの工夫が随所に散りばめられ、居心地の良い広場で行われる生き生きとしたアクティビティが、景観として立ち上がっていることを知ることができました。


写真2:グランドプラザでは様々な工夫によって対流を促している(提供:山下裕子氏)

3. これからのまちなか広場
講演を終えて、参加者からは天気が悪くて寒い北日本の冬にまちなか広場をどのように活用するか、高校生などが自習のために場所を占拠するのではないかといった課題について、実体験を交えた質問をいただきました。しかし、これらもまた余白と寛容という視点に立ってみれば、解決できることなのかもしれません。山下さんが関わる八戸まちなか広場マチニワも北国にありますが、冬場は人が多く通る場所のみガラス戸を開けるなど、臨機応変に対処をしているようです。これはある意味で、寒さに寛容になるということでしょうか。高校生についても、いざイベント等で場所を使うとなると席をあけてくれるし(他者への寛容)、またコアタイムが大人とは異なるので(余白の時間の多様性)、さほど問題に捉えていないという回答がありました。このような実践的な課題を一つずつ解決しながら、ポストコロナ時代の公共空間というものがかたち作られていくのかもしれません。
今回は1時間という短い時間だったことと慣れないオンライン開催であったことから、十分に議論しきれなかったところもあるかと思います。事態が落ち着いたら、また改めて参加者の皆さんとまちなか広場について語り合う場を作ってみたいと思っております。最後になりましたが、お忙しい中ご参加いただいた皆様、どうもありがとうございました。


写真3:八戸まちなか広場マチニワの景観(提供:山下裕子氏)