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AH! vol.70 - 2020/07/03《from 長野支所》

李 時桓/信州大学工学部建築学科 助教
岡村 晃/信州大学大学院総合理工学研究科工学専攻1年

□ ルーバーによる日射遮蔽
現在,地球温暖化対策やエネルギー供給の安定化のために建築分野においても消費エネルギーの削減が求められています。特に,建物使用時の冷暖房負荷の削減は大きな課題です。そのような現状の中,近年ではファサードに日射遮蔽ルーバーを設置する建物も増加しています(写真1)。日射遮蔽ルーバー(以下,ルーバー)は窓面から室内に侵入する日射を制御することで夏場の冷房負荷を軽減する部材です。また,ルーバーは形状や材質,色など多様な種類が存在し,意匠的な目的で使用される場合も多いです。


写真1 ルーバーを使用した建築例

一方で,ルーバーは形状や設置する方角,時間帯や日射の角度などによって日射遮蔽効果が変動します。これらを考慮した効果的な設計をすることは困難です。信州大学工学部の李研究室では,ルーバーの最適設計手法の提案のために,ルーバーの日射遮蔽効果を分析する研究を進めています。

□ ルーバーが室内に及ぼす影響
ルーバーが室内に及ぼす効果を検討するために,簡易箱模型を用いた屋外実測を行いました。1面に窓を設置した,床面積500 mm×500 mm,高さ500 mmの箱模型を作成し,垂直と水平の2種類のルーバーを設置して箱内部の温度を測定しました。以下に箱模型(写真2),箱模型の内部温度を示します。


写真2 箱模型

図1 箱模型の内部温度

図1に示す箱模型の内部温度を比較すると,垂直ルーバーと水平ルーバーどちらも模型の内部温度が低下していることが分かります。垂直ルーバーについて,ルーバーが東もしくは西からの日射を受ける9:00~10:00,14:00~15:00の間は箱のみとの内部温度差が大きくなりました。水平ルーバーは,日中に安定した日射遮蔽効果が得られました。特に日射が正面から当たる12:00ごろに箱のみとの内部温度差が大きくなりました。

□ 遮蔽係数の検討
2種類のルーバーに対して日射遮蔽効果を明らかにするために,数値流体解析にてルーバーを設置した箱モデルを作成し解析を行いました。ルーバーの日射遮蔽効果は遮蔽係数によって検討します。遮蔽係数は箱のみのモデルの窓表面日射熱取得と各ルーバーを設置したモデルの窓表面日射熱取得の比によって与えられます。また,遮蔽係数は0~1までの間で,小さいほど日射遮蔽効果が高いと言えます。図2は解析で得られた日射熱取得と遮蔽係数を示しています。


図2 解析結果

解析結果を見ると,実測で得られた結果と同様に,垂直ルーバーは9:00~10:00,14:00~15:00に高い日射遮蔽効果があることが分かります。また,水平ルーバーも12:00頃に高い日射遮蔽効果が得られることが分かります。このことから垂直ルーバーは東もしくは西向き,水平ルーバーは南向きに設置することが効果的であるといえます。このようにルーバーの形状に応じた日射遮蔽効果の時間による変動が見られました。この解析モデルはルーバー形状,材質,方角等を変えることで任意のルーバーの日射遮蔽効果を分析することができるため,ルーバーの最適設計において有用であると考えています。