Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.69 - 2020/01/10《from 石川支所》

髙木 愛子/谷口吉郎・吉生記念金沢建築館 専門員

□ 公立建築ミュージアムのオープン
令和元年7月26日に金沢市寺町に谷口吉郎・吉生記念金沢建築館がオープンしました。日本では数少ない公立(金沢市立)の建築と都市をテーマとしたミュージアムです。藩政期の歴史的建造物や明治期のレンガ造建築、世界が注目する現代建築など、各時代を象徴する建築が重層的に存在する「建築のまち金沢」の、魅力的な建築文化を国内外に発信すべく設立されました。


写真1 正面外観/撮影:北嶋俊治

□ 谷口吉郎・吉生親子と金沢
当館は、昭和を代表する建築家の一人である谷口吉郎の住まいの跡地に、長男で建築家の谷口吉生氏の設計により建てられました。寺町通りから犀川にかけての敷地面積は約2,033㎡、傾斜地を生かした地上2階地下1階建ての鉄筋コンクリート一部鉄骨造で、延床面積は約1,570㎡の建築です。(写真2)
吉郎は、九谷焼窯元「金陽堂(きんようどう)」の長男として生まれ、第四高等学校を卒業し、東京帝国大学工学部建築学科に進学しました。卒業後は、東京工業大学にて研究・教育に従事するとともに、東宮御所の設計や博物館明治村の設立など、さまざまな分野での功績が認められ、1973年に文化勲章を受章しています。また、1967年に「金沢診断」を実施し「保存と開発の調和」を提言するなど、金沢の景観まちづくりにも尽力し、1978年金沢市名誉市民第一号に選定されました。
吉生氏は、疎開のため幼少期を金沢で過ごしています。米国ハーバード大学で建築を学び、丹下健三に師事。独立後は、東京や京都の国立博物館やニューヨーク近代美術館改築を手掛けた国際的な建築家です。金沢では玉川図書館や鈴木大拙館を設計し、まちに新たな魅力を創出しています。
このように「金沢に育まれる」と同時に、金沢のまちづくりの方針を示し、新たな魅力を創出するなど「金沢を育んだ」とも言える、谷口親子の永続的な顕彰とアーカイブズの構築も当館の使命の一つです。


写真2 犀川側外観/撮影:北嶋俊治

□ 親子のコラボレーション空間
建物の外観は、閉鎖的な石張り壁(RC造)と、開放的なガラス張りの箱(S造)で構成されています。ガラス張りのエントランス・ラウンジ部分は高さを抑えることで、隣接する重要伝統的建造物群保存地区である寺町寺院群との連続性に配慮しています。また、開放的なラウンジに、ショップやカフェを配置することで、前面の寺町通りに新たな賑わいを創出しています。(写真3)
2階の常設展示では、吉郎の代表作である迎賓館赤坂離宮和風別館「游心亭(ゆうしんてい)」の広間と茶室を精巧に再現しています。吉郎作品の特徴である繊細なディテールやプロポーション、それらを構築する職人技の数々を体感することができます。一方で広縁に接して犀川を臨む池は、吉生作品に多く用いられる水庭のスタイルとなっています。父の内部空間と子の外部空間がコラボレーションする特別な空間です。(写真4)また、吉生氏は夜間照明にも拘っており、昼間とは全く異なる表情を見せますので、ナイトミュージアムにも是非お越しください。


写真3 ラウンジ(カフェからエントランスを臨む)/撮影:北嶋俊治

写真4 常設展示「游心亭」広間(再現)/撮影:北嶋俊治

□ 建築をもっと身近に
地下1階の企画展示室では、現在開館記念特別展「清らかな意匠―金沢が育んだ建築家・谷口吉郎の世界―」を開催中です。今後は、建築と都市をテーマとした年2回程度の展覧会やイベントなどを展開していく予定です。(写真5)
吉郎は著作の中で「人間の生活環境が美しくなるためには、明るい意匠心をもった多くの建築家とともに、建築を愛する人々の参加協力を必要とせねばならぬ。美しい郷土は、多くの人々が心を合わせて作った協同作品である。」(谷口吉郎『清らかな意匠』1948年)と記しています。また、当館名誉館長の吉生氏は「衣食住の『住』にあたる建築を、もっと一般的なものに」と語ります。
当館では、建築文化を関係者の専門領域や高尚な趣味などではなく、多くの人が身近なこととして興味関心を持ち、これからの建築やまちづくりについて考えることのできる拠点となるよう、活動を行っていきます。皆さまのご来館をお待ちいたしております。


写真5 企画展示室/撮影:北嶋俊治