Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.70 - 2020/07/03《from 富山支所》

森本 英裕/職藝学院 准教授・早稲田大学理工学研究所 嘱託研究員

□ 富山のモノづくりと景観
日本建築学会富山支所では毎年、「とやまたてもの探偵団」と題して県内の建築や町並・地域文化を辿る見学会を行っています。残念ながら2020年度は中止となりましたが、今回は昨年度に行った高岡・砺波方面見学の様子を紹介したいと思います(次回は、立山方面の予定です)。
2019年10月5日(土)、「とやまのモノづくりと景観―能作と砺波の散居村」と題して、見学会「とやまたてもの探偵団2019」を開催しました。富山県の特徴としてよく知られる「モノづくり」と「豊かな田園風景」をテーマに、株式会社 能作 本社工場・若鶴大正蔵での制作・生産現場、砺波地方に広がる散居の景観を訪ね、地域に根付き継続する伝統の姿を探訪しました。

□ とやまのモノづくり その1:株式会社 能作
最初に訪れたのは、加賀藩2代藩主 前田利長が開いた高岡城下町で栄えた鋳物産業をルーツとする株式会社 能作の「本社工場」(設計:広谷純弘 アーキヴィジョン広谷スタジオ)です。建物を巡りながらその歴史を丁寧に解説頂くとともに、職人が作業する製作の現場を見学し、現代に生きる伝統技術を肌で体験しました。


写真1 「曲がる錫」を利用したシリーズの解説

□ とやまのモノづくり その2:若鶴酒造 株式会社
次に、大正11年に建設された若鶴酒造の酒蔵を創業のシンボルとして研修施設に再生した「若鶴大正蔵」(設計:蜂谷俊雄+金沢計画研究所)を見学。伝統的な土蔵造りの建物を改修・再生したもので、古い架構を活かした階段状の大空間が印象的でした。北陸唯一のウィスキー蒸留所「三郎丸蒸留所」では、1952年の製造開始以来連綿と続くウィスキーづくりの現場を楽しみました。


写真2 若鶴酒造 三郎丸蒸留所での集合写真

写真3 砺波地方の伝承料理

写真4 旧中嶋家住宅の外観

□ とやまの景観 その1:旧中嶋家住宅にみる砺波地方の住居様式
お昼からは砺波地方に移動し、この地方の特徴であるアズマダチの民家を改修した「農家レストラン大門」で伝承料理を頂いた後、チューリップ公園内にある「旧中嶋家住宅」を見学しました。
砺波地方は中世より浄土真宗信仰が盛んで、お斉(とき=精進料理)には、各家庭で収穫した米・野菜類を使用し、仏前に供えたのちに参会者が頂く慣わしがありました。伝承料理はこれが発展したものだそうです(農家レストラン大門HP参照)。
砺波地方に残る民家の中で最も古い旧中嶋家住宅では、ワクノウチ造りによるヒロマを中心とした間取りの基本形を学びました。
□ とやまの景観 その2:砺波平野の散居村
続いての散居村の見学では、黒野弘靖氏(新潟大学准教授)に散居村の村落構成について解説頂きながら散策しました。土地所有の変遷や水路のネットワーク、道と家の向きの関係など、目の前の散居村の背後にある構成原理を丁寧に説明頂きました。最後は舟戸橋付近の展望地点より砺波平野を一望、参加者からの質問や議論も弾み、散居村を理解する大変有意義な機会となりました。
黒野先生はじめ、各建物で対応頂いた関係者の皆様に御礼申し上げます。


写真5 舟戸橋付近の展望地点より砺波平野を一望

【関連URL】
株式会社 能作 https://www.nousaku.co.jp/
若鶴酒造 株式会社 https://www.wakatsuru.co.jp/
農家レストラン大門 http://n-r-ookado.co.jp/
旧中嶋家住宅 https://www.city.tonami.toyama.jp/photo/1301237156.html
砺波の散居村 https://www.city.tonami.toyama.jp/kanko/special/sankyoson/index.html