Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.69 - 2020/1/10《from 長野支所》

中谷 岳史 /信州大学工学部建築学科 助教

1.床上浸水
令和元年19号台風では、記録的大雨により各地で大きな被害を残しました。
長野県長野市では千曲川が氾濫して、建物が浸水しました。被害規模は、全壊(786棟)や大規模半壊(231棟)、半壊(566棟)に上ります。
建物が床上浸水すると、短期間で浸水部分にカビが発生して、短期間に居住環境が悪化します。アメリカのEPAのガイドライン1)では、浸水後は24-48時間以内の洗浄乾燥、もしくは廃棄を推奨しており、早急な対応が求められます。一方で被災直後は作業種類と作業量が膨大であり、将来のカビ発生を見越した初期対応の選択は困難でした。今回は筆者の自宅を例に、被災後の対応を時系列で紹介します。
2.対象建物
対象建物は、長野県長野市篠ノ井地区にあります。今回は千曲川堤防を越水して、道路から高さ1mまで水位が上昇しました。建物の一階床上30cmが浸水し、半壊判定でした(図1)。建物の浸水時間は24時間以内であり、泥の蓄積厚さは約1cmです。延べ床面積100m2の二階建であり、ツーバイフォー工法の床勝ち床断熱、基礎通気口です。被災初日に工務店へ連絡し、廃棄用トラックとスタッフ数人、そして大風量ダクトファンと床下排水ポンプを依頼しました。


写真1:被災直後の室内空間

3.報告
① 床下換気(2日目~)
建物浸水後は、汚泥やカビによる汚染物質の発生が予想されます。無計画な通風や扇風機の配置は、建物全体に汚染物質を拡散する可能性があります。そこで床下の乾燥は、被災直後から開始しました。初期は強制通風、その後は床下排気の換気システムの二段階で計画し、いずれも外気から室内、室内から床下、そして外気へ排出することを意図しました。
 強制通風の運用期間は、被災直後から1か月程度です。一階和室の一部を丸ノコでカットして点検口を設け、大風量のダクトファンを設置して、室内から床下空間に向けて24時間運転させました(写真2)。床下温度を上げるため、エアコンを連続暖房運転(設定温度24度)しました。またショートカット防止でダクトファンに近い換気口は塞ぎ、外部の風圧力を軽減する為に換気口に板を立てかけました。
写真3は床下の状況であり、左が被災4日後、右は16日後です。被災直後は泥が堆積していたのが、約3週間の強制通風の運用により表面が乾燥しました。今回の建物はおさえコンクリートのないベタ基礎であり、地盤の上に防湿シートを敷設、そしておさえの砂がありました。防湿シートの保護を優先して、泥のかきだしは行っていません。床下の消石灰配布は、後の床下作業を阻害すること、地面表面にカビが発生した時に目視確認しにくいことから行いませんでした。なお床の断熱材はポリエチレン系ボードであることから除去せずに経過観察を選択しました。


写真2:床下送風ファンの設置


写真3:床下空間

強制通風は、音がうるさく、応急対処です。そこで床下排気の換気システムを準備しました(写真4)。機器風量は、室内空間の換気回数は0.5回/h、床下空間の換気回数は5回/h程度になるよう選定しました。発注は被災直後に行い、被災10日後に大工・電気工事を行いました。なお天井用換気システムは1万円前後で比較的安価である。コンセント交換などの電気工事と併せると、効率よく依頼できます。 運用開始は被災3週間経過後です。強制通風から切り替えた理由は、地面表面が乾いたこと、また11月になって外気温度が低下してきたことで換気熱損失を少なくしたかったことが挙げられます。床下乾燥は初期段階で着手でき、床下を乾燥することができました。また1階床の解体は、改修費用増加や改修中の引越しなどが生じます。床解体を回避でき、被災生活の負担を大きく低減できました。一方で、床以外の未対策部位はカビが発生し、対応が後手に回りました。


写真4: 写真4:床下排気の換気システム

② 壁解体(13日目~21日目)
被災13日後にコンセントの交換工事を行った際、壁体内部を確認しました。コンセントボックスからは壁体内部がよく見えないことから、押入の側壁を一部開口しました(写真5)。壁体内部は浸水時の水が保たれており、繊維系断熱材は湿潤状態であった。また触診により確認したところ、浸水高さより10~20㎝程度高い位置まで濡れていました。壁内部は泥がたまっており、カビの発生が確認されました。写真は被災16日後の間仕切壁内部であり、石膏ボードにカビが生じていました。
 今回は浸水部位の壁解体の判断が遅く、壁内部にカビが発生しました。室内側からの壁解体は居住者が行うことができる作業であり、災害直後から一週間程度の間に行い、石膏ボードと断熱材を除去することが望ましいと考えます。
 


写真5:壁の解体

③クッションフロア
クッションフロアは、安価でデザインが多様であり、トイレや洗面所で一般的に使われます。しかし透湿抵抗が高い為、室内空間に向けた蒸発が少なくなります。見た目は綺麗であることから気づくのが遅れ、被災32日後にクッションフロアを除去しました(写真6)。合板表面の含水率は40%を超えていて明らかに濡れており、また外周部で一部カビが発生してました。クッションフロアはカッターナイフで簡単に除去できることから、被災直後に居住者自身が行うべきです。


写真6:クッションフロア

4.まとめ
本執筆内容は、あくまで一例です。令和元年19号台風は準寒冷地の秋でした。温暖地の夏であれば、カビの発生速度は速くなることが予想されます。浸水深さが一階天井を超えると解体部位が大幅に増えますし、堤防決壊であれば大量の泥が建物に侵入します。また床の断熱が繊維系断熱材であれば、除去作業に大幅な労力が必要とされます。
ただし浸水建物で共通する内容として、床下乾燥に初期段階から取り組むこと、浸水した壁体のクロスと石膏ボード、断熱材、そして床のクッションフロアは除去すべきことは、復旧作業において優先順位を高くすべき事項です。

□参考文献
1) EPA, Flood Cleanup: Protecting Indoor Air Quality, EPA 402-F-18001, 2018