Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.68 - 2019/9/13《from 富山支所》

萩野紀一郎/富山大学芸術文化学部 准教授

 2019年度支部大会では、「建築ストックの有効活用における専門家の役割」という題目で、日本建築学会前副会長の松村秀一先生(東京大学大学院工学系研究科・特任教授)による基調講演会が行われた。以下にその概要を報告する。

日時:2019年7月6日(土)14:35~16:15
場所:ウイング・ウイング高岡・研修室502(富山県高岡市末広町1番8号)

 講演は、「ひらかれる建築-民主化の作法-」という副題からスタートした。「建築の民主化」というキーワードを掲げ、日本の住宅や住まい・暮らしの大きな流れについて、具体的な事例や松村先生の経験を、ユーモアと笑いを交えながら、これからの生き方について考えさせられる大変示唆に富む内容であった。

 まず、「第一世代の民主化」は、1960年代から1973年のオイルショックまでの時代。住宅不足で工業化・標準化・部品化が推進されたマス・ハウジングの時代。

 次に、「第二世代の民主化」は、1980年代のバブル経済時の多品種生産・受注生産方式が導入されたマス・カスタマイゼーションの時代。

 そして、バブル崩壊後から現在は、「第三世代の民主化」として、建物・知識・技術の充分なストックを背景に、経済成長時のステレオタイプと異なる「人の生き方」の実現を求め、ストックを利用する構想力が求められる時代であるとのこと。その具体例として、松村先生が深く関わられた「3331アート千代田」の事例をはじめ、また徳島県の神山町など様々な積極的な移住を「高品質低空飛行」という生き方として、わかりやすく説明いただいた。

 最後に、このような状況における建築や地域づくりに関わる専門家の役割として、
・空間資源を可視化する
・「利用の構想力」を引き出し、組織化する
・場のしつらえを集合知として情報共有する
・行動する仲間をつくる
・まちの持続的経営を考える
・アレとコレ、コレとソレを結ぶ
・まちに暮らしとしごとの未来を埋め込む
などというポイントをあげながら、実際に松村先生が関わられたリノベーション・スクールの活動をはじめ、多くの実例をスライドで紹介されながら、説明された。そして最後に、これからは建築を取り巻く分野の「しごと」の可能性は、大きく広がる時機であると締めくくられた。

 75名ほどの聴衆は、建築関係者や富山大芸術文化学部の学生だけでなく、一般の市民の方も見受けられ、松村先生の話に引き込まれ、熱心に聞き入り、最後には質疑応答が時間いっぱい活発に行われた。


写真1 多くの聴衆の前で講演する松村秀一先生

図1 松村先生基調講演ポスター、富山大芸術学部4年・野村弥和デザイン