Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.67 - 2019/7/24《from 長野支所》

小林 貴光/株式会社ヤマウラ 技術本部設計チーム設備設計グループ
李 時桓/信州大学工学部建築学科 助教
中島弘善、池田慧/信州大学工学部建築学科 李研究室

□住宅の中に土間スペースを設ける
 長野県は北海道よりも寒さは厳しくありませんが、住宅の基準が北海道よりも低いため室内の快適性は低い傾向にあります。そのような現状の中、株式会社ヤマウラが提案する「ハコノイエ」は断熱と遮熱に徹底しており、外の寒さに関係なく家中どこでも暖かで、暖房効率にも優れた省エネ住宅です。この住宅はリビングの一部が土間になっており、住宅の中に半屋外のような空間を設けることで暮らしの幅を広げています。蓄熱量の高い土間を用いることで、住宅にどのような影響があるのかを、信州大学工学部建築学科と共同研究を進めています。


写真1:土間のあるリビング 

写真2:ハコノイエ外観

□日射による室内への影響
 ヤマウラのモデルルームである『ハコノイエ』は窓のある南側の一部が土間になっています。そこで、日射の影響を考えたときに床の部位が土間とフローリングでどのように違うのかを検討しました。まず、動的エネルギーシミュレーションを用いて、簡易モデル(床面積:5,000mm✕5,000mm,高さ:3,500mm,窓:2,000mm✕2,000mm,窓の高さ:500mm)で作成し、床部分を全面フローリングの場合と全面土間の場合に分け、日射による室内の温度と床の平均表面温度の違いを検討しました。場所が長野県長野市で、検討日が8月1日です。


図1:全面フローリング 


図2:全面土間

 平均表面温度は室内の温度と比例するという結果になりました。次に土間の場合、室内の温度と平均表面温度が外気温度よりも低く、フローリングよりも低くなります。平均表面温度は室温に比例しているように見えるが、土間を構成するコンクリートの性質から,時間遅れで温度が高くなっています。この検討から室内に土間部を設けることが有意義であると予想されます。今後の検討としては、時間を延ばしたときにフローリングよりも土間の方が高くなるかを考えていきます。さらに窓の向きの違いについても取り組みます。

□通風性能向上の取り組み
  ハコノイエの特徴の一つとして、高気密・高断熱による暖房期の省エネ性能の高さが挙げられます。断熱性能の高さと低コストを同時に実現するためには、一般的に窓面積は小さくとる必要があります。一方,夏期における室内環境の改善のパッシブ手法として、通風が有効であると考えられています。もちろん窓面積を多くとるのに越したことはありませんが、性能の高い家を低コストでお客様にご提供するために、今回は限られた面積の窓を最大限生かすための設計を検討しました。具体的には、現状と同じ窓面積という条件で改善案を考え、流体数値解析を行って、解析結果の比較を行いました。下の図3と4は、外気風速を1.5m/sと仮定した際,居住空間において、人がソファなどに腰かけた時の胸の高さの気流分布を示しています。


図3:現状の気流分布 


図4:改良版の気流分布

  体表面付近で気流が生まれると、人体が作り出した熱がスムーズに空気へと伝達されることで、温冷感が下がる効果があります。それを踏まえて、上の結果図を比較していただくと、居住域が快適になっていることがお分かりになると思います。これがこの解析の狙いでしたが、今回は同時に、換気量を増やす方法も検討しました。窓配置、窓形状などを変えて解析を行った結果、風上側の総開口面積と風下側の総開口面積を、イコールに近づけることが効果的であることが確認できました。換気は汚染物質を除去することが目的であり、通風性能の向上と必ずしも比例するものではなく、また開口部においては、採光の確保も重要であるため、これらの改善の効果がどれだけあるかを把握することは、これからの設計において有用であると考えています。

  以上の研究成果は2019年9月3日~9月6日に行われる2019度日本建築学会(石川・金沢工業大学)で下記の題目で発表する予定であるので、参照して頂ければ幸いです。
・題目:コンクリート埋設式床暖房が導入された戸建て住宅における暖房負荷低減効果に関する研究
・著者:小林貴光・李時桓・浅野良晴・清水一馬・小島豊彦・小林宏和
・日本建築学会大会学術講演梗概集,2019年09月(口頭発表予定)