Webマガジン■AH!■

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AH! vol.67 - 2019/7/24《from 福井支所》

藤田 大輔/福井工業大学環境情報学部デザイン学科 准教授

福井県三方上中郡若狭町にある旧岬校(岬小学校・三方中学校岬分校)を漁村体験施設として再生した内容について報告する.

■みさきち(若狭町みさき漁村体験施設)の整備
1)改修の概要
 廃校となった旧岬校校舎の利活用計画について,藤田大輔研究室が宿泊施設の基本設計を担当することとなった.旧岬校周辺を含めて若狭町にある民宿や旅館は,個人旅行者を主なターゲットとしているため,スポーツ少年団,学校クラブ等を主なターゲットとし,宿泊者層の重複を避けた.また,漁業が盛んな地域特性から,魚さばきや干物加工などを体験することができる場所を設けることとした.

2)設計の基本的考え方
 廃校になった小・中学校に対する地元住民の愛着に配慮し,可能な限り現存する空間の雰囲気を残して利活用することを検討し設計を進めた.そこで,外観はそのまま残すこととし(写真1),1階の管理諸室部分は食堂,浴室,洗濯・乾燥室などの宿泊施設の基本的機能を配置した.2階は家庭科室を談話室に,教室を宿泊室とした.廊下と宿泊室間の壁をふさぐ必要があったため,廊下の雰囲気を一変させ,室名の雰囲気に合ったカラフルな壁面と黒板アートで彩る再生された校舎として演出した(写真2).3階も教室群であったが,音楽室にスクリーンを新設するのみとし,教室そのままの雰囲気を残した.


写真1:みさきちの外観

写真2:2階宿泊エリアの廊下は黒板アートとして演出

図1:体験調理場の当初案

3)実施設計で変更になった点
 体験調理場は図1に示した提案から、作業エリアとテーブル席エリアを分け,魚さばきの作業スペースレイアウトなどを含めて大幅に変更となった.特に床が水洗いしやすいように作業エリアとテーブル席エリアに段差を設けることとした.デッキ部分は大幅な変更はなく,バーベキュー等を行うなど漁村の魅力を体験できる場所となっている.
 脱衣室および浴槽はランニングコストの低減を考え,コンパクトな浴室を2つ設けている.当初は浴槽のある浴室とシャワー室としていたが,シャワー室を取りやめて浴槽のある浴室を2室設置することとなった.浴室面積が若干異なるので,人数規模に応じて浴室の選択が可能となっている.脱衣室は洗濯機の設置がなくなったがほぼそのまま仕上がっている.
4)サイン計画と家具の選定
 施設内のサインについては、当研究室学生の卒業制作として取り組み、すべて一品もので提案・制作した(写真3)。動かなくなった既存時計を活用したサインおよびロゴについても学生と協働で製作している(写真4)。また備品である家具・物品についてもデザイン上のコンセプトと合致するよう主なものは当研究室で選定した。


写真3:制作したサイン

写真4:既存時計を活用したサイン

■みさきちを中心とした若狭町活性化
 みさきちは、グラウンドに隣接して海があり、山も湖も近いことから、自然体験活動の宿泊拠点として魅力が高い。今後も海や山、湖を活用した活性化に向けて、研究室スタッフおよび本学学生有志とともに取り組んでいく予定である。

参考文献:
1)藤田大輔:福井県三方上中群若狭町の観光促進を目指した拠点整備の取り組み ,2017 年度私立大学ブランディング事業研究報告「宇宙」事業推進のための地域と協働するふくい PHOENIX プロジェクト研究報告集 ,pp.40-43,2018.2
2)みさきちホームページ:https://www.misakichi.jp/