Webマガジン■AH!■

北陸5支所(新潟、長野、富山、石川、福井)の建築・まちづくり等に関する話題をお届け

AH! vol.66 - 2019/4/22《from 石川支所》

熊澤 栄二/石川工業高等専門学校建築学科 教授

□活動の背景と目的
加越国境の倶利伽羅峠を通る「北陸道」沿いの戦国城址である「龍ヶ峰城跡(山森集落)」(図1)は、津幡町の歴史形成を語る上で重要な歴史遺産であるが、周知度が低く訪れる人が少ない(課題1)。また山森集落は旧北陸道沿い集落として発展し、古くは十数軒あった集落も現在は住民登録されている家は1軒のみとなり(住民2名、高齢化率100%)、数年内に消滅の可能性が強い(課題2)。
以上の課題を踏まえ、熊澤ゼミは、山森地区の空き家(築150年 本多邸)を活用した過疎化に向けた新しい地域文化継承のための観光の拠点化整備を実施することを目的に活動を開始しました。特に本年度は、本多邸の改装計画および倶利伽羅駅を含む活性化計画の立案を目指し活動を行いました(図2)。


図1:山森集落(倶利伽羅 苅安校区内)周辺地図

図2:取り組み全体のフロー

□活動の全体
地域からの依頼に対して、次の4つの活動を平成30年度ゼミ活動として設定しました。
①観光資源調査:山森地域全域に残る歴史資源の再調査。
②観光対象設定:調査結果を踏まえ、山森集落の「空き家を利活用したイベント」企画を決定。
③観光整備計画策定:活動母体となる「倶利伽羅を愛する会」設立と会の活動内容の決定。
④空き家整備活動:ゼミ主体による本多邸一階(以下、「拠点」) 改装整備の実施。
活動は、本科4年、5年生が主体となって進められたが、プロジェクト・マネージメントのため、専攻科1,2年生を適宜指導役に入れて実施しました。なお4年生は建築学課題演習の正規授業として、5年生は卒業研究の一環として参加しました。紙幅の都合により、建築に関連が深い④のみについて以下に報告します。
□空き家整備活動
a.本多邸実測調査:本科4年生と5年生を中心として実測調査を行いました。木曜日の最終コマの授業が、建築学課題演 習 (4年生)・卒業研究(5年生)、特別研究(専攻科1,2年生)に設定されているため、異学年合同での調査チームを編成して 実施しました。実測作業は4, 5年生が担当し、専攻科生が野帳のつけ方、測定位置の指示・指導などを行いました。一度の調査で2チームを編成し、家主である本多日出男 氏の話しを頼りに過去の増改築以前の部材位置、部屋割りなどを推定して復元に当たりました。
b.軸組模型の検討および改装案の矩計設計:8月には5年生のバラス(バトボルト)君を中心に3Dモデルを作成した上で、部材寸法の確認と図面化を行いました。併せて1/20の軸組模型を作成し、改装計画の検討行いました(写真1)。実施設計では、1/5の模型を作成し施工方法や運用上の安全を確認した上で矩計図面を作成しました(12月下旬から1月上旬)。


写真1:改装計画1/20と雪囲いベンチ1/5モデル

c.雪囲いベンチの制作:1月下旬から、矩計図面を基に今年度設置が決定された「雪囲いベンチ」(写真2)の制作を開始しました。なお、本多邸は降雪期に向けて、既存の雪囲いの設置はすでに昨年12月中旬に完了しています。そのため学内で雪囲いベンチをパーツ毎に制作し、現地まで搬送・据付設置することにしました(4月下旬設置予定)。円滑な作業を進めるために工程表を学生自らが企画・作成し、制作のプロセスは勿論、出来方の管理を行う体制で作業を進めています。


写真2:雪囲ベンチ製作風景

□活動の成果
本取り組みは、大学コンソーシアム石川「平成30年度地域課題研究ゼミナール支援事業」の地域共創支援枠に採択され活動を行ってきました。その成果を平成31年2月23日に開催された「大学・地域連携アクティブフォーラム」で発表、優秀賞を受賞する幸運に恵まれました(写真3)。建築教育を通して地域の課題を解決する中で、地域の活力と魅力を学生・地域住民一体となって共に創造する姿勢が評価されたもとのと思います。このような学生の地道な活動を支援して頂きました石川県ならびに倶利伽羅 刈安校区の住民の皆さまに記してお礼申し上げます。


写真3:大学・地域連携アクティブフォーラム優秀賞受賞式